ジンザ冒険者になる
――その日の夕暮れ。
街の中心にある冒険者ギルド。
木の看板には《冒険者組合》と刻まれ、酒場を兼ねた建物の中は冒険者たちの笑い声や武器の音で賑わっていた。
「さて、ここらで正式に冒険者登録しておいた方が良かろうな」
ジンザは長い杖を手に、カウンターへ歩み寄った。
「冒険者登録ですか?」
受付嬢の若い女性が微笑む。
「うむ。我ら、しばらくこの街を拠点にせねばならんでな。名義があれば依頼も受けやすかろう」
そう言ってジンザは書類にさらさらと名前を記入していく。
「はい、ではこれで正式に冒険者登録完了です!」
ぱちんと受付嬢が印章を押した。
敬人は隣で小声で呟いた。
「……潜入って話だったのに、完全に表に出ちゃってるな」
「むしろ堂々とした方が怪しまれんじゃろ」
ジンザは悪びれもなく笑った。
その頃、建物の外。
広場に残っていたムキムキスケルトンは、鎧屋の店先に貼られたショーウィンドウを凝視していた。
そこには銀に輝くプレートアーマーと、重厚なフルフェイスの兜。
鏡のように磨かれた胸当ては、まるで「筋肉を包むために存在している」と言わんばかりに眩く光っている。
「……主。鎧。兜。欲しい欲しい欲しい」
またしても脳内に響く声。
「お前またかよ!」敬人は即座にツッコむ。
「だって、鎧……筋肉もっとカッコよく見える。兜……ガチで強そう」
「……理由が全部見た目じゃねーか」
「物欲が強いスケルトンは聞いたことがないな」
くもりんが笑いながら言う。アリリマートもげらげら笑っている。
シロは「ぷしゅるっ」と鳴き、首をかしげる。
しかしスケルトンは真剣そのもの。
「また稼ぐ。芸する。金ためる。鎧と兜、絶対買う」
敬人は額を押さえ、ため息をついた。
「……お前、そのうち全身フル装備になって、絶対“ただの冒険者”じゃなくなるよな」
神様は天界で腹を抱えて転げ回っていた。
「ぶははっ! 芸で稼いで武装強化!? 潜入どころか、街に“伝説の筋肉騎士団”とか生まれる未来が見えるよ!」
こうして、ジンザは正式に冒険者登録を済ませ、
一方でムキムキスケルトンは次なる目標――鎧と兜の獲得――に向けて、再び筋肉を燃やし始めたのであった。




