筋肉と魔獣の激突
広場は戦場と化していた。
黒炎を纏った狼が牙を剥き、影の魔獣たちが吠え立てる。対するは、白骨に不釣り合いなまでの隆起した筋肉――ムキムキスケルトン。
――ドゴォンッ!
影の獣が跳躍し、爪で骸骨を切り裂こうと迫る。
だがスケルトンはその瞬間、サイドチェストのポーズ!
横腹から爆ぜるような筋肉圧が衝撃波となり、獣を地面に叩きつけた。
「ぐぅっ!? な、なんだその戦い方は……!」
黒衣の魔物使いが顔を歪める。
続けざまに黒狼が突進。紫炎の牙が大気を裂く。
スケルトンは動じず――両腕をゆっくりと組み、モストマスキュラー!
盛り上がった僧帽筋が爆発的な圧力を生み、牙を弾き飛ばす。
「ば、化け物だ……筋肉で炎を止めた!?」
「いや、止めただけじゃない……押し返しておる!」
呆然とする群衆。子供が思わず叫んだ。
「がんばれ! 筋肉おじさん!」
応援にスケルトンは答える。片膝をつき、二頭筋を誇示するダブルバイセップス。
その動きに合わせ、骨と筋肉のきしむ音が響き、砕けた石畳さえ震えた。
「くそっ、力押しでは……! ならば数で押し潰せ!」
魔物使いが叫ぶと、影の獣が四方八方から飛びかかる。
――しかし次の瞬間。
スケルトンは大きく息を吸うように胸を張り――
ラットスプレッド!
肩から背にかけて広がる異常なまでの広背筋。
その迫力に獣たちが一瞬怯み、突進の勢いが削がれる。そこへ骨の拳が振り下ろされ、一体、また一体と地面に沈んでいった。
「おおお……まるで筋肉で幻惑しとるようじゃ」
ジンザが感嘆の声を漏らす。
だが黒狼は怯まない。紫炎を纏いなおし、巨大な火球を吐き出す。
広場全体が焼き払われかねない規模――!
「いかん!」
ジンザが思わず叫んだその瞬間、スケルトンは地を踏み鳴らし、全身を極限まで膨張させた。
――クラシックポーズ・トリプルコンボ!
正面フロントダブルバイセップス!
横からサイドトライセプス!
最後に真正面、モストマスキュラー!!!
筋肉の三連撃が衝撃波となり、火球を押し潰すように弾き飛ばす。
炎は宙で破裂し、火花の雨が夜空に散った。
群衆から歓声が上がる。
「すげぇぇぇ!!」
「芸じゃなかった! 本物の英雄だ!!」
黒衣の魔物使いは顔を歪め、杖を振りかざす。
「馬鹿な……ならば、俺自ら――」
その言葉を遮るように、スケルトンが一歩踏み込んだ。
骨の脚が地を砕き、巨体が一直線に迫る。
そして最後のポーズ――アブドミナル・アンド・サイ!
腹筋と太腿が爆ぜるように盛り上がり、その圧で魔物使いの防御結界を粉砕した。
「がはっ……!」
黒衣の男は吹き飛び、地に叩きつけられる。狼も影の獣も消え失せ、静寂が広がった。
群衆はしばし沈黙。
やがて、ひとりの子供が小さく拍手を始め――その音は波のように広がっていく。
「筋肉おじさん!」「ありがとう!」
広場は歓声と拍手に包まれた。
だが当のスケルトンは黙したまま、ローブを拾い直して肩にかける。
ゆっくりと振り返り、ポーズひとつ残すと、影のようにその場を去っていった。
ジンザは額を押さえながら呟いた。
「……目立たぬ潜入のはずが、これでは街の英雄になってしまったわい」
天界で見ていた神様は大笑い。
「ぶはははっ! 潜入どころか筋肉伝説の誕生だよ! でも……なんかカッコいいじゃん!」




