魔物使い襲撃
昼下がりの街広場。
人々がわいわいと集まり、中心で――ローブを着崩したムキムキスケルトンが仁王立ちしていた。
「おおーっ! 今日は何を見せてくれるんだ!」
「昨日の片手逆立ち筋肉芸は最高だったぞ!」
子供から大人まで、観客の熱気は最高潮だ。
スケルトンはゆっくりと両腕を広げ、胸を張る。
――ぐっ、ぶるんっ!
筋肉が隆起するたびに、観衆から歓声が巻き起こる。
その横でジンザはため息をつきながらも、人々の話を聞き取っていた。
「……ふむ、領主は本日、砦へ兵を出す手筈。ならば盗賊どもも動くはずじゃが……」
その時だった。
――どごぉん!
広場の門が破られ、武装した集団が雪崩れ込んできた。
「ひ、ひぃっ! 盗賊だ!」
「逃げろーっ!」
悲鳴が響き、群衆が一斉に散り散りに逃げ惑う。
鎧を纏った男が先頭に立ち、獰猛な笑みを浮かべた。
「へっ、街はもうもらったぜ! 女も財も俺たちのもんだ!」
だがその背後。
黒衣の男が一歩前に進み出ると、足元に魔法陣が浮かんだ。
そこから現れたのは――黒い狼、牙に紫の炎を宿す魔獣。
「……あれが魔物使いか」
ジンザが顔を強張らせる。
観客は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったが、ただ一人――広場の中央に残った巨体があった。
ムキムキスケルトン。
賊のリーダーが一瞬たじろぐ。
「な、なんだあの野郎……骸骨だと?」
「へっ、ただの大道芸人だろう! ぶっ殺せ!」
盗賊が一斉に襲いかかる。
スケルトンは黙して動かない。だが次の瞬間、ローブをばさりと脱ぎ捨てた。
――眩く光る白骨と、異様なまでに盛り上がった筋肉。
広場にどよめきが走った。逃げかけた子供まで思わず足を止める。
「……出たな、『筋肉芸人』!」
誰かの声に、スケルトンは静かに両腕を振り上げ――フロントラットスプレッド!
盗賊たちは思わず足を止めた。
だが一人が我を取り戻し、剣を振り下ろす。
――がしゃん!
骨の腕で軽く受け止め、次の瞬間、大胸筋を隆起させただけで相手を吹き飛ばす。
「ひぃぃっ!? な、なんだあの力は!」
次々と盗賊が挑むも、全て筋肉ポーズ一閃。
サイドチェストで二人まとめて吹き飛ばし、アームカールで槍をへし折り、モストマスキュラーで衝撃波のような威圧を撒き散らす。
観衆は呆然としていた。
「……芸じゃなかったのか……?」
「いや、芸でこれやってた方がもっと怖い……!」
だが、黒衣の魔物使いは冷ややかに笑った。
「ふん……ただの筋肉バカかと思えば、面白い骸骨だな。だが所詮は一体。群れを止められるか?」
彼が杖を振ると、黒い狼が咆哮し、さらに三体、影の魔獣が広場に現れる。
地響きと共に、街は再び混乱に包まれた。
ジンザは震える手で杖を握りしめた。
「……敬人殿、どうする?」
ダンジョンから視界を繋ぐ敬人は、険しい顔で呟いた。
「……あの魔物使い、ただ者じゃない。だが、この街を壊されるのを見過ごすわけにもいかねぇ」
アリリマートがダンジョンの奥で叫ぶ。
「オレ イキタイ! タタカウ!」
「我も行こう。糸の出番じゃな」くもりんが声を上げる。
だが敬人は首を振った。
「まだ駄目だ。今は……スケルトンに任せる」
広場中央。
ムキムキスケルトンがゆっくりと両手を掲げ、全身の筋肉を限界まで膨らませた。
それはもはや芸ではない。戦の舞。筋肉の咆哮。
「……来いよ、魔物使い」
敬人の声が、骸骨の奥底まで響いた。
次の瞬間――骸骨の筋肉と魔獣の群れが、広場で激突した。




