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筋肉は世界共通

夜更け。街の片隅の安宿。

 ジンザは机に羊皮紙を広げ、集めた情報を整理していた。


「……なるほどのう。北の砦を拠点に、盗賊団が幅を利かせておる。しかも、ただの野盗ではなく、魔物を操る者が背後にいるらしい」


 老いた指先が地図をなぞる。

 村を追放された身でも、彼の頭脳は鋭い。聞き耳と観察で、領主や兵士の噂を巧みに拾い上げていた。


 そこへ、どすん、と音を立てて現れたのは――金貨や果物を山ほど抱えたムキムキスケルトンである。

 ローブはさらに破れ、胸元が完全に露出している。

「おぬし……何をしておった?」

 ジンザが半眼で睨むと、スケルトンは両手で金貨を差し出し――そのままダブルバイセップス。


「……筋肉で稼いできおったか」

「すげー! スケルトンなのにもう大道芸人じゃん!」と天界の神様が笑い転げる。

敬人は視界共有で状況を見ながら、机を叩いた。

「情報収集って言ったのに、なに筋肉で小銭稼いでんだよ!」


 だが、ジンザは苦笑しつつも頷いた。

「いや……これはこれで使えるやもしれん。『筋肉芸人』として人々の注目を集めれば、かえって怪しまれずに済む。潜入とは、時に奇策を用いるものじゃ」


 白蛇のシロがするすると机に上り、羊皮紙の一点を尻尾で叩いた。

「ぷしゅっ」

「そうじゃな……問題はここよ」ジンザは頷く。

「領主は盗賊討伐のために、外部の傭兵団を雇うつもりらしい。だが、その傭兵団の中に、どうやら魔物使いが紛れ込んでおる」


「魔物使い……?」敬人が眉をひそめる。

「うむ。連中は盗賊と通じており、討伐の名目で人や物資を奪うつもりじゃ。街もまた、利用される側に回るじゃろう」


 重苦しい沈黙が落ちる。

 だがその中、スケルトンは唐突にサイドチェストのポーズを決め、筋肉幻影をぶるんと揺らした。

「……何のアピールじゃ」

「いや……多分『俺がぶっ飛ばす』って意味だと思う」敬人が代弁する。


「ははっ、いいじゃんいいじゃん!盗賊も傭兵も、筋肉で黙らせれば一発解決だよ!」

 神様が調子に乗る横で、ジンザは深く息を吐いた。

「……まあ、確かに戦力としては頼もしい。しかし、敵が魔物を操るとなると……正面から筋肉でどうにかなるかは怪しいのう」


 シロがくい、とジンザの肩に頭を擦り付ける。

幼体でありながら、その瞳には強烈な光が宿っていた。

「……シロが成長すれば、魔物使いの支配を打ち破れるかもしれん。だが、まだ幼すぎる」


「なら――時間を稼ぐしかないな」敬人が結論を口にする。

「ジンザは頭脳で情報を探れ。シロは訓練して魔物対策だ。……そしてスケルトンは」


 視界の中で、ムキムキスケルトンがゆっくりと正面を向き――完璧なフロントラットスプレッドを披露した。


「……筋肉で人気を稼げ」

「おい!」ジンザが盛大に突っ込む。

「それでよいのか!? 本当に潜入する気があるのか!?」


 だが翌朝。

 街の掲示板には、こう書かれていた。


『緊急告知! 本日の広場にて――筋肉芸人の再演あり!』


 ジンザは頭を抱え、敬人は天界で遠い目をしていた。

「……潜入どころか、完全に名物扱いじゃな……」

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