筋肉の守護者街に降り立つ
翌日。
ダンジョンの奥、敬人の前に立つのは――巨大なローブに身を包んだムキムキスケルトンであった。
布はぎしぎしと張り裂けそうで、フードからはごつごつとした顎の骨がちらりとのぞく。
だが、ローブの裾からは丸太のような太ももが飛び出し、筋肉が脈打つたびに布が悲鳴をあげている。
「……おお、思ったより似合っておるではないか」
ジンザは咳払いしながらも必死に笑いを堪える。
「いや、似合ってはいるが……布が持ちそうにないな」
敬人が頭を抱えると、アリリマートがけたけたと笑った。
「カッコイイ! デカイ! オレ マケル!」
「流石に目立ちすぎではないか」
くもりんは苦笑いをし、シロはひょこっと首を出してきょとんと眺めている。
「よし、行くか」
敬人の合図で、ジンザと共にムキムキスケルトンは街道を歩き出した。
――街の門前。
守衛が二人、槍を持って立っていた。
「おい、そこの大男。顔を見せろ」
声をかけられ、ムキムキスケルトンは一瞬止まった。喋れない。どうする?
だが彼は迷わなかった。
――ぐっ、と胸を張り、ローブ越しに大胸筋を盛り上げる。
ぶるんっ、と布がはち切れそうに震える。
「な、なんだこの迫力……!」
門兵は思わず一歩下がった。
「こ、こほん……失礼した。通れ」
あっさり退いた。ジンザは横で小さくため息をつく。
「……言葉より筋肉とは、恐ろしいもんじゃ」
市街に入ると、奇妙な光景が繰り広げられた。
露店で肉串を売る商人が声をかける。
「兄さん! どうだい? 一本焼きたてだよ!」
ムキムキスケルトンは受け取ると、骨の口に突っ込み――もちろん食べられるわけがない。
そこで突然、力強くアームカールのポーズを決めた。
ごりっ、と筋肉が隆起。肉串は宙を舞い、驚いた子供が慌ててキャッチした。
「す、すげぇ! おじさん強いんだ!」
歓声が上がり、周囲の人々は拍手喝采。商人も大喜びで叫んだ。
「宣伝効果抜群じゃねえか! 今日は串が売れるぞ!」
――それからの街歩きは、ほとんど大道芸だった。
荷車が坂で止まらなくなれば、ムキムキスケルトンが片手で支えて筋肉ポーズ。
大道芸人が倒立をすれば、片手逆立ちで勝負し、観衆を沸かせる。
言葉一つ発しないのに、筋肉の動きだけで全てを表現するその姿は、いつしか「謎の旅芸人」として噂になっていった。
「……これはこれで、潜入になっておるのかのう」
ジンザが額を押さえ、シロはぷしゅるっと笑うように鳴く。
一方、天界から見ていた神様は大爆笑だった。
「ぶはっ! 街潜入っていうより筋肉ショーだよ! でも、逆に誰も正体なんて疑わないんじゃない?」
敬人は苦笑しながらも頷いた。




