新たな眷属
森の小道。倒木の下にうずくまる老人を見つけたムキムキスケルトンは、しばし首を傾げた。骨だけの顔には表情が浮かばないが、その逞しいポーズの合間に老人の荒い呼吸を感じ取っていた。
「……だ、誰じゃ……? 骸骨……?」
老人はかすれた声で呟く。村から追放されたばかりなのだろう。肌は青ざめ、痩せ細った腕は今にも折れそうだ。
だがムキムキスケルトンは答えない。ただ黙って老人を軽々と担ぎ上げ、力強く歩き出した。
「ひぃっ!? お、お前、食うつもりか!? ワシは……まだ死にとうはないぞ!」
必死の叫びも虚しく、スケルトンは胸筋を隆起させるポーズで応える。老人には理解できなかったが、その歩みは確かに優しかった。
やがて、彼らはダンジョンの奥へと辿り着いた。
そこに待っていた敬人は、視界共有で全てを見ていたため事情を把握していた。
ムキムキスケルトンに抱えられて戻ってきた老人の体は、痩せこけて震えていた。
皮膚は土気色で、呼吸は浅く、目元には病の影が濃く刻まれている。
「……お爺さん、大丈夫か」
敬人が声をかけると、老人はうっすら笑った。
「大丈夫なものか……ワシは村で流行った病にかかり、追い出されたのじゃよ。病人を抱えては皆が恐れ、ワシ一人を……」
傍らで小さな白蛇が必死に老人に寄り添っていた。
「……この子だけが、ワシを見捨てなんだ。ワシが歩けぬ時も、温もりだけは絶やさずに……」
白蛇は幼体だが、その鱗には異質な輝きがある。敬人は一目で理解した。
「ただの蛇じゃないな……最強種の血を引いてる」
「そうらしいのう……だがまだ赤子で、守ることしかできん」
敬人は深く息を吸い、決断する。
「爺さん、あんたはこのままじゃ病に殺される。だが、俺の眷属になれば死なずに済む。ただし……人間ではなく、半分はアンデッドになる」
老人はしばし目を閉じ、そして薄く笑った。
「ハッ……人に捨てられた身だ。人のまま死ぬよりは、あんたらと共に生きた方がまだ幸せかもしれん」
その言葉を合図に、敬人の手が地を叩く。
紫の魔法陣が広がり、老人と蛇を包み込む。
「……っ!」
老人の肌から黒い瘴気が溢れ、腐食しかけた肉体を骨紋が繋ぎ止める。呼吸は安定し、濁っていた目に再び光が戻る。
一方の白蛇はその身に赤黒い斑模様を宿し、魔力が脈打つように体を震わせた。
「これが……眷属……!」
老人は自らの手を見て呟いた。皮膚には血管の代わりに淡い骨紋が浮かび、冷たいが確かな力が宿っている。
「シロ……お前も……?」
白蛇は甲高い声を上げ、老人の肩に巻き付いた。
「成功だな」敬人は頷いた。
神様がふわりと声をかける。
「うんうん!病に負けず、仲間に迎え入れるなんて最高じゃん!頭脳担当と、最強種ベイビー、いいコンビだね〜」
アリリマートが胸を張って叫ぶ。
「オレ マモル! ジジイ ナカマ!」
くもりんは鋼糸で「歓迎」と文字を描き、ムキムキスケルトンはダブルバイセップスを披露する。
老人は目を潤ませ、震える声で言った。
「……見捨てられたワシを……迎えてくれる者がいるとは……」
こうして、流行病に倒れかけていた老人と、幼き最強蛇は新たな眷属となり、ダンジョンに生き直す居場所を得たのだった。




