骸骨vs門番
街門が見えてきた。石造りの高い城壁に、松明を持った守衛たちが立っている。
視界共有を通じ、敬人はムキムキスケルトンの巨体を操りながら小さく息を呑んだ。
「……いよいよだな。ここを突破すれば、人間の街の内部に――」
その時。唐突に神様の声が降ってきた。
『あっ、ごめんごめん! 言い忘れてたけど、アンデッドは街の結界で弾かれるから入れないよ〜』
「はぁぁぁあああ!?!? おい、それを先に言ええええええ!!」
敬人の怒声がダンジョンの最深部に響き渡った。
「ナンダ、ハイレナイ?」アリリマートが首を傾げる。
「……我から見ても、神の説明不足は甚だしいな」くもりんも呆れたように複眼を光らせる。
ムキムキスケルトンは、城門の前で無言のままポーズを決めていた。
フロントダブルバイセップス、ラットスプレッド、サイドチェスト。
まるで「通してください」と言わんばかりに全身の筋肉(骨だが)を誇示する。
「……いや、無駄だろ。筋肉で通れるなら世の中もっと平和だわ」
敬人が額を押さえると、守衛の一人が叫んだ。
「ひっ……不浄なるもの! この街に入れるわけにはいかん!」
直後、街の結界が発動。
バチンッ、と紫電が走り、ムキムキスケルトンの体は門前から弾き飛ばされた。
「……やっぱりダメだったか」
敬人は深いため息を吐いた。神様のヘラヘラした声が追い打ちをかける。
『ね〜? だから言ったでしょ〜。でもまあ、門前でポーズ取るムキムキくんは最高に映えてたよ!』
「映えてるとかどうでもいいんだよ!!」
潜入作戦は呆気なく失敗した。
だが、街門の前で気絶していた商人や冒険者の姿が、スケルトンの視界に映り込む。
どうやら昼間の盗賊騒ぎで逃げ込んできた者たちが、疲労困憊でここまでたどり着いたらしい。
「……ふむ。街の中は無理でも、街に来る“外の人間”から情報を得ることはできるな」
敬人は呟く。
さらに街の周辺には、打ち捨てられた荷車や落ちた物資が点在していた。
矢束、薬草、そして何より、見慣れぬ鉄製の工具。
「これ……新しい素材になりそうだな。生成に使える」
「タカト、ヨロコブ?」アリリマートが触角を揺らす。
「まあな。街の中に入れなくても、得られるものは多い」
「……敬人、やはりお前は前向きだな」くもりんが静かに笑う。
ムキムキスケルトンは落ちていた工具を拾い上げ、誇らしげにオーバーヘッドプレスのポーズを決めた。
まるで「これも戦利品だ」とでも言うかのように。
「……はいはい。とりあえず持ち帰れ。次は、この辺りで新しい眷属を探してみるか」
敬人の眼窩の紫炎が揺らめいた。
潜入は失敗した。だが、この街の周辺から始めれば、いずれ必ず人間の世界へと繋がる――そう確信して。




