助けてくれたのはムキムキなスケルトンでした
敬人が視界共有の術を発動すると、視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間にはムキムキスケルトンの目から見える風景が広がった。
骨だけの身体に盛り上がる異様な筋肉、その巨体がごつごつとした音を響かせながらダンジョンを歩いていく。
「……よし、まずは街へ向かわせるか」
敬人が呟くと、神様も天界から見ていた。
「わぁ〜視界が繋がるとほんとに冒険してるみたいだね〜」
「オレ ソト イッタコトナイ!」アリリマートが興奮気味に足をばたつかせる。
道中、森の小道を抜けると、奇妙な光景に遭遇した。
一人の男が、倒れ込んだ商人に剣を振り下ろそうとしている。
「おっと……人間同士の争いか」
敬人の声に反応するように、ムキムキスケルトンは自然に前へ出る。
骨の指がぎしぎしと鳴り、商人を庇うように立ちはだかった。
「な、なんだお前はっ! 骸骨だと!?」
賊の男が怯えたように叫び、剣を構える。
しかしスケルトンは一言も発さず、ただ力強く腕を組み、胸筋を躍動させて見せつけた。
ぶるんっ、と音がしそうなほどに膨らむ筋肉。
その威圧感だけで賊の男は腰を抜かし、剣を取り落とした。
「ひ、ひぃぃぃっ!」
そのまま森の奥へと逃げ去っていく。
「……喋らない代わりに筋肉ポーズか。まあ、それで十分伝わるんだな」
敬人が苦笑すると、神様がくすくす笑った。
「いいねぇ〜!言葉より筋肉!人類普遍のコミュニケーションだよ!」
助けられた商人は青ざめながらもスケルトンを見上げた。
「た、助かった……まさかアンデッドに命を救われるとは……」
おそるおそる礼を言いながらも、相手が喋らないことに気づき、どうしていいか分からず固まる。
そこでムキムキスケルトンは、再び胸を張り、力強くダブルバイセップスのポーズを決めた。
月明かりに白い骨と赤黒い筋が照らされ、妙に神々しい。
「……あ、ありがとう……? そ、その……筋肉が素晴らしい……」
商人は思わず拍手をしていた。
「フッ……これで街へ潜入するきっかけができるかもしれないな」
敬人の心に小さな手応えが芽生えた。
だが――
「次は街の門番だな。どうやって突破するか……」
視界の先には、石造りの高い城門と、槍を持った守衛たちが立ち並ぶ姿が映っていた。




