新しい能力
戦いが終わり、辺りに漂うのは冒険者たちが残した血と埃の匂い。しかしその中心で、敬人の胸中は妙に落ち着いていた。
――俺は、進化した。スケルトンアントとして。
その証拠に、体の奥から何か新しい力が湧き上がってくるのを感じる。
「なんだ、この感覚……。頭の中に……命令を下せる“何か”がある」
試しに意識を集中させると、脳裏に黒い炎が走り、地面に淡い魔法陣が浮かび上がった。
「バクハツ!コワイ!」
アリリマートが慌てて敬人の後ろに隠れる。
くもりんは逆に冷静で、糸を構えながら目を細めた。
「……これは、“召喚”の気配だ。アンデットを呼び寄せる能力か」
ゴゴゴ……と地面が揺れた。
そして現れたのは――
バキバキバキッ!
土を突き破って姿を現したのは、巨大な骨格の戦士。
いや、ただの骨ではない。肩や腕に無駄に盛り上がった筋肉……いや、筋肉ではなく「骨の塊」が筋肉のように重なり合っているのだ。
その姿は、誰がどう見ても「ムキムキ」だった。
「な、なにこれ!? スケルトンなのに……マッチョ!?」
「おいおい、俺こんなの呼んだ覚えないぞ!?」
敬人が叫ぶと同時に、どこからともなく声が響く。
『あー、うんうん! バッチリ召喚できたねー! ちなみにそいつの名前は“ムキムキスケルトン”。君の最大のライバルだよ!』
ヘラヘラとした神様の声だ。天界から覗き込んでいるのだろう。
「……神様、絶対遊んでるだろ」
『えー? そんなことないよ? だって強い方が楽しいじゃん! それに敬人、あんまり地味な骨呼び出しても物語が映えないでしょ?』
「いやいや、映えとか考えるのお前ぐらいだから!」
その間もムキムキスケルトンはポーズを取り始める。
片手で上腕二頭筋を見せつける「力こぶポーズ」、両腕を広げる「フロントダブルバイセップス」、そして腰をひねって「サイドチェスト」。
観客がいるわけでもないのに、骨の筋肉を見せつけている。
「……スケルトン?ドウシタ?」
「……知らん。むしろ俺の精神力が削られてる」
「キンニク…カッコイイ!」
アリリマートはキラキラした目で呟いた
すると神様が追い打ちをかけるように言った。
『あ、それねー。実はムキムキスケルトン、戦闘力は見た目通りに強いんだよ! ただし……技は全部ポージングを通さないと出せないけどね!』
「なんだそのデメリットはあああああ!!」
敬人の叫びが森に響いた。
だが、確かに強力な力を得たことは間違いない。
敬人はため息をつきつつも、ムキムキスケルトンの堂々たる姿を見て思った。
「……まあ、見た目はアレだが。これも俺の進化の一部ってことか」
その眼窩の紫の炎が、ゆらりと揺れた。




