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プライドの仲間

ダンジョンの最深部に、四人の冒険者が踏み込んできた。

 剣を抜いた戦士、盾を構える聖騎士、鋭い視線を放つ盗賊、そして詠唱を始める魔術師。典型的なパーティー編成だが、油断はならない。


 鋼糸を震わせる低い音が洞窟を支配した。

「……侵入者か。我が巣を踏みにじる愚か者よ」

 天井に張りつくくもりんの声は威厳を帯び、冒険者たちの背筋を凍らせる。


 同時に、アリリマートが奇声を放った。

「オオオオオオッ!! コロス! ゼンブ、コロスッ!!」

 前脚の槍が石床を砕き、火花が散る。戦士が一歩引き、魔術師の詠唱が止まった。


「ひっ……! な、なんだこいつらは……!」

「おい、構えろ! ただの魔物じゃねぇ!」

 冒険者たちは即座に戦闘態勢に入る。剣と盾が前に出、盗賊が影に消えた。


 空気が張りつめたその瞬間、敬人が一歩前に出た。

「待て! アリリマート、くもりん!!」

 声が洞窟に響く。二体の魔物が動きを止め、彼に視線を向けた。


「殺す必要はない」


「くもりん、伝えてくれ」


 合図を受け、くもりんの声が低く、洞窟全体に響き渡る。


「ここは、我が大切に守ってきた場所……そして今は、敬人と仲間たちの住処だ。探索に来ること自体は構わぬ。だが――」

 くもりんの複眼が、冒険者たちを射抜くように光る。

「害をなすなら、敬人は絶対に許さない」


 その言葉が放たれた瞬間、空気が重く沈み込むように張り詰めた。冒険者たちは息を呑み、誰ひとり動けない。


 敬人は拳を強く握りしめる。

「アリリマート! この人たちを、ダンジョンの外に置いてきてくれ」


 しばしの沈黙の後、アリリマートは不満げに触角を震わせた。それでも、敬人の言葉に従い、槍のような前足を引く。

 冒険者たちは安堵と困惑の入り混じった表情を浮かべながら、巨大な蟻に抱えられて連れ去られていった。


冷たい風が吹き抜ける森の入り口。

 アリリマートの巨大な顎が開き、冒険者たちを地面にそっと下ろした。


「……ココマデダ」

 くぐもった声を残し、アリリマートは森の奥へと戻っていく。その背中は、戦場で見せた猛々しさとは裏腹に、どこか誇り高く、そして敬人の命令に忠実だった。


 冒険者たちはしばし沈黙し、互いの顔を見合わせる。

 やがて、盗賊風の男が乾いた笑いを漏らした。

「はは……助かったのか、俺たち」


「助かった……のか? いや、あれは……脅しだ」

 戦士が低く唸るように言った。剣を握る手はまだ震えている。

「“敬人が許さない”って……あれは脅しだ。もう一度踏み込めば、次は容赦なく殺される」


 僧侶が唇を噛みしめ、空を仰ぐ。

「だが……あのアリの眼差し、覚えているか? 怒りでも憎しみでもなかった。むしろ――何かを守ろうとする強さだった」


 魔法使いの女が静かに言葉を継ぐ。

「彼は……あの魔物たちの“主”じゃない。仲間、なのよ。だからこそ従わせられる」


 四人はしばし考え込むように黙り込んだ。

 やがて戦士が吐き捨てるように言う。

「次に来る時は……敵か、あるいは――」


 盗賊が口の端を歪める。

「味方、ってわけか」


 その答えは、まだ誰にも分からなかった。

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