最深部の攻防
笑い声が迷宮の奥に響いた、その刹那だった。
甲高い金属音が、遠くの通路から反響してきた。剣を抜く音。鎧が擦れる音。そして重い足音が、こちらへ近づいてくる。
敬人の表情が一変する。
「……来たな」
くもりんは天井から糸を垂らし、ぎらりと八つの目を光らせた。
「四つの影……人間の冒険者だ。油断するな、奴らは本職ぞ」
アリリマートは槍を振り回し、顎を鳴らす。
「オオオオオォォ!! タタカウ!!」
その横で、コロスハコは震えながら「ヒィィ……」と情けない声を漏らす。
だがアリリマートはその宝箱を豪快に抱え上げ、吠えた。
「コブン!! オマエ、モッテル!! イッショ!! タタカウ!!!」
「ギャアア!? や、やめろォ!! ムリ、ムリィィ!!」
必死にじたばたする人喰い宝箱を担いだまま、アリリマートは前へ躍り出る。
やがて、松明の灯がゆらりと現れた。
四人の冒険者が最深部に姿を現す。
先頭は鋭い剣を携えた戦士。筋骨隆々とした体を鎧に包み、目に闘志を宿している。
その隣には軽装の盗賊。短剣を逆手に構え、素早さを前面に押し出す。
後方には長杖を構える魔法使いが控え、冷たい眼差しで魔物を睨む。
そして最後列には聖印を抱いた僧侶が立ち、仲間を守るように祈りを捧げていた。
「……まさか、最深部にこんな群れが潜んでいようとは」
戦士が剣を抜き放ち、仲間に声をかける。
「ここで仕留めるぞ! 依頼以上の報酬が約束される!」
盗賊が笑った。
「蜘蛛の巣か……厄介だな。けど、罠ごと切り裂けばいい」
魔法使いは低く詠唱を始める。
「炎こそ浄化……巣ごと焼き払えばよい」
僧侶が一歩前に出て、静かに言った。
「仲間を守り、悪しき魔を祓う。それが我らの務めだ」
彼らは四位一体、隙のない陣形を組み、迷宮の守り手を見据えた。
敬人は唇を噛む。
「強いな……だけど、ここは俺たちの巣だ」
アリリマートは槍を叩きつけ、奇声を放った。
「オオオオオォォ!!! カカッテコイィィ!!!」
コロスハコは半泣きで暴れるが、アリリマートの腕力からは逃れられない。
「や、やだぁ! 死にたくねぇぇ!!!」
「ダイジョブ!! オレ、マモル!!!」
天井に張りついたくもりんは、冷徹に仲間へ指示を飛ばす。
「敬人、正面を塞げ。アリリマートは突撃だ。コロスハコ……噛みつけそうな奴を狙え。私が後ろを切り裂く」
蟻の体を持つ敬人は顎を鳴らし、決意を込めた。
「……やるしかない」
最深部の空気が、一気に張り詰める。
冒険者四人組と、迷宮に集った異形の仲間たち。
――戦いの幕が、いま開かれる。




