タカラモノ!
くもりんは高い天井に身を張りつけ、ゆるやかに視線を落とした。
その声音は、低く響き渡る。
「……この迷宮は、我が安息の地。
主を失い、彷徨うばかりであった我を、静かに受け入れてくれた場所。
ゆえに――誰一人、踏みにじらせはせぬ」
敬人はその気迫に思わず背筋を伸ばす。
「……なら、俺たちも守ろう。この場所はもう、お前だけのものじゃない。俺たちの居場所でもあるんだ」
その言葉に、アリリマートが身体を大きく揺らし――
「オオオオオォォォォ!! タタカウ!! オレ、タオスゥゥ!!!」
奇声をあげながら鎌脚を振り回し、砂煙を巻き上げた。
くもりんは一瞥をくれ、威厳を崩さぬまま口を開く。
「……うむ。力は猛り、智は荒削り。しかし猛き戦力としては申し分あるまい」
「なんかバカにしてないか!?」と敬人が振り返ると、
「ふふ……何を申す。我はただ、この力強き同胞を讃えただけだ」
と、泰然と答える。
そうして一行はしばし休息に入った。
敬人は岩に腰を下ろし、今後の方針を思案する。
「仲間は増えた。けど、この迷宮を守るとなると……仕組みを考えないとダメだな」
くもりんは壁の高みに身を預け、戦いで裂けた外殻を静かに修復していた。
「我は力を蓄える……次の侵入者に備えねばならぬ」
そんな中、アリリマートが「オオオ!」と声を上げ、どこかへ駆けていった。
敬人は目を瞬かせる。
「え、どこ行くんだよ……」
しばらくして――地響きと共に、アリリマートが大きな何かを引きずって戻ってきた。
「ミテ!! ミテェ!! スゴイモノ、ミツケタァ!!!」
その鎌脚に抱えられていたのは、豪奢な装飾が施された一つの大きな宝箱だった。
蓋には牙のような彫刻、側面には禍々しい紋様。明らかに只者ではない。
「……って、まさか、それ……」と敬人が立ち上がる。
アリリマートは目をキラキラさせ、誇らしげに宝箱を掲げた。
「タカラモノ!! ゼッタイ、ナニカ、スゴイノ、ハイッテルゥゥ!!!」
――その瞬間。
宝箱の蓋が突如として牙のように開き、唸り声をあげながらアリリマートに噛みつこうとした。
「ギシャァァァァッ!!」
「ナンダァァァ!? クウノカァァァァ!? オレ、クワレルゥゥゥ!?!?」
一瞬後、アリリマートの目に炎のごとき怒気が燃え上がる。
「……コロス!! コロスコロスコロスコロスコロスコロスゥゥゥ!!!!」
槍を振りかざし、凄まじい速度で人喰い宝箱を突きまくる。
金属音と衝撃が迷宮に響き渡り、宝箱は蓋をばたつかせて必死に防御を試みる。
「ギ、ギギ……! マ、待テ……!! 我、降参スル……! 子分ニ、ナル!!」
必死の命乞い。
アリリマートは荒い息を吐きながらも槍を止め、その場で仁王立ちした。
「……コブン? オレノ、コブン……? ウン!! ヨシ!!! オマエ、コブンゥゥ!!!」
人喰い宝箱……いや、新たなる同胞よ。名は何と申す?」
「オ、オレ……? ナ、名前ナイ……。欲シイ……」
宝箱はおずおずと答えた。
アリリマートはすぐさま叫ぶ。
「コロスハコ!! ナマエ!!」
「おい、それは不吉すぎるだろ……」
タカトのツッコミが響き、洞窟はどっと笑いに包まれ




