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三顧の礼

ダンジョン奥の広間。

糸に覆われた巣の上に、巨大な蜘蛛がじっと佇んでいた。


敬人とアリリマートは三度目の訪問だった。

最初は茸を差し出し、次は宝石や虫の肉を並べた。だが蜘蛛は背を向け、仲間になる気配は見せなかった。


それでもタカトは諦めなかった。

「……今日で三度目だ」

彼は深呼吸をして、巣の前に進む。


蜘蛛の複眼がゆっくりと彼らを見下ろす。

「しつこいな、蟻達よ」


敬人は頭を下げた。

「しつこいのは自分でもわかってる。だけど、君が必要なんだ」


アリリマートが背後で「ウオオオオオオオッ!!」と奇声を上げ、巣の糸を掴んでぶんぶん振り回す。

蜘蛛は呆れたように触肢を動かす。

「その騒がしい蟻は、どうにかならんのか」


「……ならない」

敬人は苦笑する。

「でも、あいつは命を懸けて仲間を守ってくれる。信じられる存在だ」


蜘蛛はしばし沈黙した。

広間に糸の軋む音だけが響く。


やがて蜘蛛は低く呟いた。

「……三度も我を訪ね、頭を下げる者は久しい」

「……」

「お前のしつこさと、その蟻の奇声……不思議と、嫌いではない」


複眼が赤く光り、蜘蛛の巨体が巣から降りる。

床に八本の脚が触れるたび、重い振動が響いた。


「良かろう。我が名は――くもりんだ。共に歩もう」


タカトは一瞬固まった。

「……え?」

「なんだ?」蜘蛛が複眼を光らせる。

「いや……いい名前だと思う。ただ、思ったより……可愛いなって」


蜘蛛――くもりんは静かに触肢を揺らした。

「この名は、かつて我を創造してくださった方が与えてくれた、大切な名だ」

「創造して……?」

「うむ。その方は医療に精通し、弱き者を救おうと尽力される、とてもお優しい方だった。力強さよりも、親しみを込めて呼べる名を、との願いで……私は『くもりん』となった」


敬人は慌てて頭を下げる。

「そうだったのか……軽く言ってごめん。でも、いい名前だと思う。優しい人がつけてくれたんだな」


「ふん。理解してくれるならよい」くもりんは少し誇らしげに糸を揺らした。


その隣で、アリリマートが「ウオオオオオッ!!!」と意味もなく奇声をあげる。

敬人は肩をすくめた。

「……いや、やっぱ可愛い方がありがたいかもな。アリリマートの名前とのバランス的に」


こうして――三顧の礼の末、くもりんはついに敬人とアリリマートの仲間となった。

彼らの冒険は、さらに大きな力を得て進んでいく。

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