敬人の願いと蜘蛛の答え
広間に緊張が走る。
蜘蛛の複眼がぎらりと光り、残った脚を広げて一気に突き出してきた。
「アリリマート、下がれ!」
敬人が叫ぶが、アリリマートは逆に前へ踏み込む。
「ウオオオオオオオオッ!!」
槍脚を振り上げ、蜘蛛の突きを真正面から叩き落とす。
凄まじい衝撃音が広間に轟き、床の石が砕け散る。
蜘蛛の動きが一瞬鈍った隙を逃さず、タカトが跳躍。
「ここだ!」
鋭刃化した爪が光を反射し、蜘蛛の腹部を斜めに切り裂く。
「ギィィィィッ!!」
蜘蛛が悲鳴を上げ、糸を四方八方に吐き出す。だが、アリリマートは猛獣のように吠えながら突撃し、槍脚で糸を弾き飛ばす。
「アアアアアアアアアッ!!」
敬人とアリリマートが左右から同時に攻め立てる。
爪と槍脚の連撃が蜘蛛の体を削り、白銀の糸まみれだった広間は、いつしか瓦礫と血飛沫の戦場へと変貌していた。
そして――
アリリマートの槍脚が、蜘蛛の胴を貫いた。
「ウオオオオオオッ!!」
蜘蛛が大きく仰け反り、広間に振動が走る。
トドメを刺そうと、アリリマートはさらに槍脚を振り上げた。
「待て、アリリマート!」
敬人が叫び、前に飛び出す。
「殺すな! この蜘蛛は、まだ……」
鋭く構えた槍脚が敬人の目の前で止まった。
アリリマートが「ウゥ……」と唸りながら振り返る。
敬人は蜘蛛に向かって声をかけた。
「お前、強いな。だが殺したくはない。……どうだ、仲間にならないか?」
蜘蛛の複眼が敬人を映す。
しばし沈黙――やがて、かすれた声が広間に響いた。
「……我は、この階層を守る者。ここを離れることはできぬ」
その言葉は拒絶だった。
敬人は拳を握りしめ、しかし無理強いはしなかった。
「そうか……分かった。またくるよ」
蜘蛛は苦しげに身を震わせ、糸を吐き出しながら奥へと退いた。
殺されずに済んだ命を受け止めるように、静かにその場に身を横たえる。
アリリマートは不満そうに槍脚を振り回し、
「ウオオオオオオオッ!」
と暴れながらも、最後には敬人の声で抑え込まれた。
こうして蜘蛛との激戦は終わり、仲間にはならなかったものの――
その戦いの爪痕は、敬人とアリリマートの胸に深く刻まれたのだった。




