名前の光
敬人の目の前に、狂槍アントがどっさりと荷物を抱えて戻ってきた。
「お、お前……また変なの拾ってきたな」
床にごろごろと転がったのは、鈍い光を放つ石のかけらや、金属の輪っか、そして手のひら大の水晶玉。
敬人が首をかしげるより早く、神様の声が降ってきた。
「おー、いいね敬人。その水晶玉、使った人の魔力を上げるやつだよ。なかなかレアなの拾ってきたじゃん」
「魔力を……上げる?」
「そそ。敬人にも役立つし、アントくんにもいいかもね〜」
使って見るか…
その瞬間、水晶玉がふっと光を放ち、敬人の体を淡く包みこんだ。
「そうだ、せっかくだしアントくんに名前をつけてみたら? なんかイイ感じになると思うよ、敬人」
「え、名前……?」
敬人は思わず振り返る。目が合ったアントは「???」と首をかしげ、巨大な触角をゆらしている。
少し考え込んだ末、敬人は小さく息を吐いた。
「……じゃあ、アリリマート。どうだ」
「ナマエ……! アリリマート……! ウレシイ!」
巨大な顎をカチカチ鳴らし、喜びを爆発させるアリリマート。敬人は思わず笑みをこぼす。だが同時に、身体の奥からずしりとした重さが襲ってきた。
「……ん? なんか急に疲れたような……」
額に汗をにじませる敬人を見て、神様は涼しい声で返す。
「気のせい気のせい。だって名前を与えるって、それくらい大切なことだからね〜、敬人」
わざと核心を避けるような言い方。敬人は訝しんだが、すぐにアリリマートの嬉しそうな姿に意識を奪われた。
「アリリマート! アリリマート!」
触角をブンブン振り回しながら、敬人の周りをぐるぐる回る。まるで子犬のようなはしゃぎっぷりだ。
「はは……まぁ、そんなに喜んでくれるなら、いいか」
敬人は疲労感に苦笑いを浮かべつつ、アリリマートを見守った。
神様の声が、くすくすと笑うように響いた。
「うんうん、いいコンビになってきたじゃん。あとは――ま、楽しみにしてて、敬人」
意味深な言葉を残して、神様は黙り込む。敬人は首をひねったが、深追いはしなかった。
こうしてアリリマートという名前は、確かに刻まれたのだった。




