狂槍アリの大冒険
狂槍アントは、のしのしと足音を響かせながら、暗いダンジョンの奥へ進んでいった。
つい先ほどまで戦場で狂乱の修羅と化していた男(?)とは思えない。今の彼は、ただのお散歩気分である。
「……なぁ、神様。あいつ、どこ行く気なんだ?」
『さぁ……でも、なんだか楽しそうだね。ほら、壁の石を見て』
タカトが呆れながらも指さす先で、アントは壁のくぼみに埋まっていた光る鉱石を見つけていた。
彼は「タカト……?」とつぶやき、槍脚で器用に引っかけると、背中の隙間にそっと挟み込む。
それから満足そうに頷くと、また奥へと進んでいく。
「おいおい……石が俺に見えるのかよ」
『うふふ、宝物を集めてるみたい』
さらに進むと、床に小さなキノコが生えていた。
アントはじっと見つめた後、「……タカト?」とつぶやき、今度はそっと抜き取って槍脚の間に挟む。
どうやら彼の頭の中では、ダンジョンの中に散らばっているものが全部「迷子のタカト」扱いらしい。
「なぁ神様。俺、あんな形してたっけ?」
『似てるところが……ないね!』
「即答かよ!」
そんなやり取りをしている間にも、ダンジョンのモンスターが姿を現した。
牙をむいて襲いかかる小鬼たち。だがアントは振り返ることもなく、ただ一言。
「タカト、サガス」
ぶん、と槍脚を振る。軽い一撃だけで小鬼たちは吹き飛び、通路は一瞬で静まり返った。
タカトは頭を抱える。
「……なんで散歩してるだけで、ダンジョンの安全度が上がっていくんだよ」
『でも、便利だね』
「便利って言うな!」
やがてアントは立ち止まった。そこには古びた宝箱が置かれていた。
彼はしゃがみ込み、集めた石やキノコや骨をひとつひとつ並べて眺める。
「……タカト、イナイ。マイゴ……」
しょんぼりと呟くその声は、戦場での咆哮とはまるで違い、妙に寂しげだった。
その背中を見て、タカトの胸にちくりとしたものが走る。
「おい、俺はここだぞ! ちゃんと後ろにいる!」
『そうだよ、アントくん。ほら、タカト見つけたでしょ』
アントはゆっくりと顔を上げ、真紅の瞳でタカトを見つめる。
そして静かに頷き、短く言った。
「……ナカマ、ミツケタ」
次の瞬間、彼は集めたガラクタを宝箱の上にドサリと積み上げ、そのままふんぞり返って座り込んだ。
ダンジョンの奥に、不思議なのんびりとした空気が漂う。
タカトは思わず笑いながら、肩をすくめた。
「……ほんと、何なんだよお前は」
『ふふっ。変だけど、やっぱり頼もしいね』
こうして、狂槍アントの“のほほん散歩回”は幕を下ろすのだった。




