槍の誓い
戦場に、獣のような咆哮が響き渡った。
狂槍アントは血走った目を剥き出し、巨大な槍脚を振り回す。振り下ろされる一撃ごとに大地は抉れ、敵は紙切れのように吹き飛んだ。
「ウオオオオオオオッ!!」
狂ったように叫び、舞い、突き、薙ぐ。
その姿は、まるで戦場に生きることだけを宿命づけられた修羅。誰も近づけず、誰も止められない。
――けれど、敬人には分かっていた。
それはただの狂気ではない。彼の心の奥底にあるのは、守ろうとする衝動だ。
「……お前、そこまでして……」
敬人は戦慄しながらも、思わず声を漏らす。
その荒ぶる背中が、不器用な優しさでできていることを感じ取ったからだ。
狂槍アントは血まみれの槍脚を振り払うと、ふいに敬人を見据えた。
真紅の瞳がまっすぐに射抜いてくる。
「……オマエ、ナカマ。オレ、マモル」
短い言葉。
だがそれは、彼が生涯で初めて自分の意思を言葉にした瞬間だった。
胸が熱くなる。
荒々しい怪物の姿に隠れていた、ひとつの誓い。敬人は不覚にも涙ぐみそうになる。
「ああ……ありがとう。お前がいてくれて、俺は……」
その時、頭上から澄んだ声が降ってきた。
幼い神様が、まるで嬉しそうに笑っている。
『ねぇ敬人。よかったね……本当に、いい仲間だね』
敬人は思わず空を見上げ、小さく頷いた。
「……ああ、そうだな。仲間だ。頼もしい奴だ」
神様は首をかしげながら、優しい声で続ける。
『でも……怖くなかった? あんなに暴れて……』
「怖かったさ。正直、心臓が止まりそうだった」
敬人は苦笑する。だが次の瞬間、まっすぐに言葉を重ねた。
「……でも、それ以上に嬉しかった。あいつが、俺を守ろうって思ってくれたことが」
神様は目を細め、にこっと微笑む。
『そっか……敬人、なんだか強くなったね』
「強いかどうかは分からないけどな。でも……仲間がいる。それだけで前に進める気がする」
胸に沁みる時間――そう、ここはきっと忘れられない瞬間になるはずだった。
だが。
「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
狂槍アントが突如として奇声を上げる。
地を蹴り、嵐のような速さで駆け出した。砂塵を巻き上げ、戦場を離れ、森の奥へと姿を消していく。
「え!? どこ行くの!? 今いい話してたのに!!」
敬人の必死のツッコミは虚しく響き、残されたのは足跡と余韻だけだった。




