俺の人生、リセットされても詰んでる件
ここは──どこだ?
何もない、真っ白な空間がどこまでも続いている。
地面も空も、上下すら分からない。まるで世界から色も音も奪われたみたいだ。
……なぜ俺は、こんな場所にいる?
記憶を探る。俺はニートで引きこもりだ。外にも出ないし、人付き合いもない。
恨まれるような覚えも──いや、そもそも関わりがない。
朝起きてネットサーフィン、あとは一日中ゲーム。これが俺の毎日だ。
そんな俺が、部屋でも外でもないこんな空間にポツンといるなんて……夢か?
……にしては妙にリアルすぎる。
途方に暮れていた、そのとき。
「──はじめまして。気分はいかがかな?」
背筋が跳ねた。
振り向くと、いつの間にか目の前に小さな少年が立っていた。
いや、“立っていた”というより、最初からそこにいたみたいな自然さだ。
「僕は、君の世界で言うところの神様さ。……まだ見習いだけどね」
「神様? 俺……まさか死んだのか?」
「そうだよ。ネットで知り合った女の子に告白して振られ、気持ち悪がられて──自殺。
……人間不信の君が信じていた唯一の人だったから、余計にね」
ズキリと胸が痛む。思い出したくもない記憶が、勝手に蘇ってくる。
俺の名前は荒谷敬人。
「たくさんの人に敬われるように」という意味で親が名付けたらしい。
子供の頃は、その期待に応えようと必死だった。勉強も運動も、両方頑張った。
人望もあった──あの日までは。
中学生のとき、母が亡くなった。
それを境に家庭は崩壊。父は酒に溺れ、暴力を振るうようになった。
会社では”良い人”なのに、家では別人だった。
壊れていく家庭から逃げるように、高校生のとき母方の祖父を頼った。
だが、人間不信の心は治らない。俺は引きこもりになり、唯一の慰めはゲーム。
祖父母は何も言わず、ただ優しく包んでくれた。……その優しさに甘え続け、28歳になった。
そんなとき──RPGゲームで出会った”彼女”。
画面越しの声や文章に惹かれ、2年間やり取りを重ねた。
「これはいける」と思った俺は、勇気を振り絞りデートに誘った。
そして、初対面のその日。テンパった俺は勢いで告白した。
「……は? マジでキモいんだけど。死ねば? イケメンかと思ったら、ただのオタクじゃん。
もう連絡しないで。さよなら」
たった一言。
されど、俺にとっては全てを砕く言葉だった。
彼女は──俺にとって唯一の救いだったから。
「……思い出したかい?」少年が笑う。
「ああ……できれば思い出したくなかった」
「ふふっ、人間って面白いね」
「勝手に観察して面白がるなよ、神様かなんだか知らないけど」
「ははは。……でも、朗報がある」
「朗報? もしかして、死んでなかったとか?」
「いや、死んだよ。でもね──生き物は輪廻転生を繰り返す。もちろん君も」
「マジか!? じゃあドラゴンとか、最強の魔物になれるのか?」
「……ドラゴンクラスは、現世で徳を積み、功績を立てた魂だけ。
引きこもりニートの君の魂は──薄い」
「くそっ! じゃあ俺は何になるんだよ!」
「そうだね……多くの者から愛され、旅立ちを見守る存在──スライム!」
「雑魚じゃん!」
「性欲は誰にも負けない絶倫──オーク!」
「嫌われ者だろ!」
「あるいは……死を超越する最強種──スケルトン」
「……転生しない。来世、さようなら」
「まあ、無理やり転生させるけどね♪」
少年がニコッと笑った瞬間、空間がまばゆい光に包まれた。
「──敬人。新たな人生、楽しむんだよ? またねー!」
気がつくと、俺はひんやりした洞窟にいた。
……え、展開早くない? さっきの何だったんだ?
自分の体を見下ろす。感覚が……人間じゃない。風が骨をすり抜けるような感触。
まさか──
「うそだろ……よりによってスケルトンかよ!!」




