表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の基準値  作者: みゆ
4/58

お兄ちゃんと 2

 お母さんが料理を再開したのを見届け再びお兄ちゃんを見ると、まだ苦しそうに咳込みながらお兄ちゃんも私を上目遣いで見ていた。その視線が睨んでいるように見えて、私は後退りするようにソファーに凭れ掛かる。

「…お前、何言ってるの?」

 息も絶え絶えに、お兄ちゃんがお母さんに聞こえないように小声で問いかけてきた。

「何って…。」

 答えるのを躊躇していると、

「ちょっと部屋に来い。」

と、お兄ちゃんが小声で命令してきた。

「夕飯出来たら呼んで。」とお母さんに告げ、私達はリビングを後にした。



「で、何なの?」

 お兄ちゃんは部屋に入ってベッドにボンと座り、立ったままの私に聞いてきた。

「…だから、お兄ちゃんは私と…。」

「それは聞いたから!」

 私が言い終わる前に言葉を発して、お兄ちゃんがはあ…とため息をつく。

「つか、何だってそんなこと聞く訳?」

「それは…。」

 私の頭の中で、校庭で瑞穂に言われた事が繰り返し聞こえてくる。

「…私が、お兄ちゃんと、キスとか…エッチとか、出来るのって…。」

 あまりに頭の中に響いたせいか、私は瑞穂が言ったそのままの台詞を、口に出していた。

「は?」

 お兄ちゃんのその一声に我に返り、慌てて

「って、瑞穂が言うからっ。」

と付け足した。

 それを聞いた兄ちゃんは、額に手を当てて下を向いた。その顔が心なしか赤かったので照れているようにも見えたけど、視線を上げて私を見たその目が、明らかに怒っているような呆れているようなものだったので、私は思わず後退りした。

「…お前、どんな話してんだよ。」

「どんなって…。」

 私は更に後退りする。

「私が言ったんじゃなくて、瑞穂が…。」

「そんなこと出来る訳ねえだろ!」

 お兄ちゃんの大きな声に、私の足が止まった。

「普通に考えて、あり得ねえだろ、そんな事。」


「…あり得ないの?」

 少しの沈黙の後、私は妙に冷静にお兄ちゃんに聞いていた。

「…は?」

 お兄ちゃんは、その言葉を聞いて驚いたような顔をして、暫く上目遣いのまま私を凝視していた。そして

「…もしかして、お前はあり得る訳…?」

と、恐る恐るといった感じで訊ねてきた。

「わ、わかんないよっ!」

 そんな風に聞かれて思わずムキになってしまい、私は真っ赤な顔で大きな声を出した。

「そんなことしたことないんだから、分かる訳ないじゃん!だからお兄ちゃんに聞いたの!」

「…何で?」

 お兄ちゃんがまた訝しげに私を見る。私は少し冷静になろうと大きく息を吸った。

「だって…、お兄ちゃんならそういうのしたことあるかもしれないから、分かるかなって思ったんだもん。」

 それを聞いたお兄ちゃんの顔がみるみる赤くなる。そして、それを悟られまいとするかの様に、外方を向いた。

 何かいけないこと言ったかな…と、少し不安になりながら、私は言葉を続けた。

「だからお兄ちゃんが“出来ない”って言ったから、やっぱりそうなのかって思ったの。」


「…あ、そ。」

 お兄ちゃんは外方を向いたまま、ぶっきらぼうに答えた。それから

「ていうか、そういう誤解されるような話あんまりするなよな。」

と言った。

「そういうって?」

「だから、お前と俺が、とかいう話だよ。」

 私は再び赤くなる。

「だからそれは、私が言ったんじゃなくて…。」

「だったらちゃんと否定しろ。」

「…はあい。」


 言う言葉が無くなってしまい、再び部屋に沈黙が訪れる。お兄ちゃんはまだ外方を向いたままだ。

 もしかしてお兄ちゃん、怒ってるのかな…。急に不安になって、恐る恐るお兄ちゃんに問いかけた。

「…お兄ちゃん、怒ってるの?」

「…別に怒ってねえよ。」

「本当?」

「ああ。」

 安心して笑みがこぼれる。

 その時一階から

「ご飯できたよー。」

というお母さんの声が聞こえた。

「はーい。」

 そう私が返事すると、お兄ちゃんはベッドから立ち上がりドアの方に向かった。

 それに付いていこうとして、ふと聞き忘れたことを思い出した。そういえば…。

「ねえ、お兄ちゃん。」

「ん?」

 ドアを開ける一歩手前で、お兄ちゃんが振り返る。

「そういえばお兄ちゃんって、結局どっちなの?」

「何が?」

「キスとか、したことあるの?」

「そんなこと!お前に言う必要ねえだろ!」

 お兄ちゃんは捨てるようにそう言って、ドアを開け足早に階段を降りていった。

 私はそれを見て、今度こそ本当にお兄ちゃんを怒らせちゃったかなと不安になりながら、お兄ちゃんの後に付いてキッチンに向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ