表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の基準値  作者: みゆ
33/58

苛立ち

「沙和、テストどうだった?」

「うーん、普通?」

 期末試験の結果を明日香に聞かれ、私はそう答えた。普通というのはクラス内とか学年内で…という意味じゃなく、あくまでも私の中ではってこと。悪くもないけど良くもない、そんな意味だ。

 明日香は私の返事を聞いて、

「そっか。私も普通。」

と笑い、

「そうだ、私もね、志望校東高に決めたよ。」

と言った。

「本当?」

 うんと頷く明日香を見て嬉しくて、自然と笑顔になる。高校に行ったらみんなバラバラになるんだと思っていたけど、明日香と同じ高校行けるんだ。

「絶対一緒に合格しようね!」

 そう私が言うと、

「勿論!」

と明日香も笑顔で言ったけど、その後眉をしかめて

「でも、今の成績で大丈夫かな…。」

と考え込んだ。

「うん…、どうだろう。」

と私も考えて、

「夏休みもちゃんと勉強すれば、きっと何とかなるよ。」

と答えた。

「そっか。そうだね。」

 私の答えに明日香も納得したようで、私達は再び笑顔で顔を見合わせた。

「そうだ!夏休み、みんなで花火大会行かない?」

 勉強の話はあまりしたくないと言わんばかりに、明日香が話題を変えた。

「田中と高瀬君も誘ってさ。行こうよ。」

「え…?」

 明日香の悪戯っぽい笑顔に、私は思わず顔を赤くした。まだ行くと決まった訳でもないのに、それを想像して胸がドキドキした。

 花火を見に行く、それだけでも嬉しかった。色とりどりの光が空に上がって広がって、それが凄く綺麗で。私は花火が大好きだった。それをみんなと…、好きな人と一緒に見れるなんて…。

「絶対行く!」

 私が赤い顔をしながらそう言うと、明日香はにっこり笑って

「瑞穂にも言わなきゃね。」

と瑞穂の席に向かい、私もそれを追いかけた。


「瑞穂。」

 瑞穂の席から一メートル位離れた場所で、明日香が瑞穂を呼んだ。それを聞いた瑞穂は、はっとしたように手に持っていた何かを慌てて机にしまって、それから私達に顔を向けた。

「夏休みさ、みんなで花火見に行こうよ。」

 瑞穂のその動作を明日香はさほど気にしなかったらしく、瑞穂の席の前でそう話し掛けた。

「田中と高瀬君も誘おうって、沙和と話してたんだ。」

「………ない。」

「え?」

 瑞穂の声がよく聞き取れず、私と明日香は同時に声を発し瑞穂を見た。すると

「行かないって言ったの!」

と、瑞穂が強い口調で誘いを拒否した。

「何で?」

 不思議そうに明日香が聞き返す。

「何で行かないの?花火嫌いなの?」

「そうじゃない。そんな花火が好きとか嫌いとか、そんなこと関係なくて…!」

 何故か苛ついたような瑞穂の声。次に続く言葉を待って、私達はじっと瑞穂を見つめた。

「ねえ分かってる?私達受験生だよ。あと半年くらいで受験なんだよ?そんな遊んでる暇ないんじゃないの?」

「そんなこと分かってるよ。」

 瑞穂の言葉に、明日香も同じ様な苛ついた口調で反論し始めた。

「別に毎日遊ぶって言ってる訳じゃないじゃん。一日位遊んでもいいでしょ?」

「…いいよね、気楽で。」

 瑞穂の嘲るような声。

「悪いけど私そんな余裕ないから、二人で行ってくれば?」

「…何それ。」

 瑞穂の言葉に明日香がキレた。

「私達の事馬鹿にしてるの?!そりゃあ、私達は瑞穂みたいに頭のいいとこ受ける訳じゃないよ?でもそれなりに受験のことだって考えてるよ!でも一日位遊んだっていいじゃん!それがいけない事?!」

「…別に、いけないなんて言ってないでしょ。」

 明日香の興奮した声に気圧されたのか瑞穂は視線を背けて、でも苛ついた表情のままで言った。

「とにかく、私は行かないから。」

「もういいよ!」

 明日香がキッと瑞穂を睨む。

「もう誘わないよ!…沙和行こう!」

 瑞穂の様子が気になって一瞬チラッと瑞穂を見たけど、正直私も瑞穂の言葉にムカついていたので、何も言わず瑞穂に背を向けた。



「沙和、帰ろう。」

 明日香の声。振り向くと、当たり前かもしれないけど、そこには瑞穂の姿はなかった。

「……瑞穂は?」

 さっきの明日香のキレた姿を思い出し、ちょっとびくびくしながらも尋ねると

「瑞穂なんて放っておけばいいよ。」

と、苛ついた様な表情で明日香が答えた。

 瑞穂はまだ自分の席に座ったままだ。それを尻目に明日香は教室から出て行き、私はその後を追いかけた。

 瑞穂と揉めてから数時間が経つ。それから今まで、私はずっと瑞穂の事を考えていた。

 瑞穂と友達になってから二年とちょっと。その間に私は色んな瑞穂を知ったと思う。真面目に勉強をする瑞穂。正論を告げる瑞穂。怒るとちょっと怖い瑞穂。私達の事をからかって楽しんでいる瑞穂。でもどんな時だって瑞穂は私達の事を想っていてくれて…。あんな言い方をする瑞穂は初めてだ。何であんな事を言ったのか。それには何か理由があるんじゃないだろうか。数時間前の瑞穂の言葉に確かに私もムカついたけど、少し時間が経って冷静になったら、そんな風に思えてきた。それに…。


「明日香。」

 私は少し前を歩く明日香を呼んだ。その声に明日香が振り返り

「何?」

と尋ねた。

「やっぱり…、瑞穂と一緒に帰ろうよ。」

 私のその言葉に、明日香が再び苛立った顔をした。そして

「沙和、何言ってるの?!」

と、責めるように私に問いかけた。

「あんな事言われて、沙和はムカつかないの?私は無理。瑞穂があんな事言う人だって思わなかった。だから、瑞穂なんて放って帰ろうよ。」

「…私だってムカついたよ。でも、瑞穂今まであんな事言った事なかったじゃん。だから、何か理由があるんじゃないのかなって思ったの。だから…瑞穂に確かめようよ。」

 苛ついた表情のまま渋る明日香の手を強引に引っ張り、私は教室へと続く道を戻りだした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ