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恋の基準値  作者: みゆ
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お兄ちゃんと 1

 キッチンで夕食の仕度をしているお母さんを背にして、私はリビングのソファーで、ぼんやりとテレビを眺めていた。

 テレビに映っているのは、少し前にオンエアされていた恋愛ドラマの再放送。主演の女優さんが、切なそうに相手役の男優さんを見ている。

 でもその映像は、私の頭の中には半分くらいしか入ってこない。あとの半分は、さっきの校庭での、瑞穂の言葉で覆われていた。


 私と明日香の“好き”の違い…。

 好きの対象が身内なのか他人なのかという面では、違いははっきりとしているけれど。

 でも。

 正直“好き”という気持ちの違いに、どんな差があるのかわからない。“一緒にいて嬉しい”という気持ちは、明日香も私も変わらないと思う。じゃあ何が違うのか。


「ただいま。」

 リビングの入口で声がした。お兄ちゃんが帰ってきたのだ。

「…お帰り。」

 いつもなら嬉しくて、とびきりの笑顔でお兄ちゃんを迎える私だけど、今日はなんだかそんな気になれず、ぼんやりとしたまま言葉を発した。

 お兄ちゃんはそんな私を気にもせずに、バスケットシューズの入った袋をソファーにボンと投げて、そのまま冷蔵庫を開けてオレンジジュースを手にする。

「腹減った。」

「もう少しで出来るから待ってなさい。」

キッチンからそんなお母さんとお兄ちゃんのやり取りが聞こえてくる。

 お兄ちゃんはオレンジジュースのパックとグラスを持ってリビングに来ると、私の座っている場所とは逆のソファーの隅に腰を下ろした。そしてグラスにジュースを注いで一気に飲み干す。そんなお兄ちゃんの行動をやっぱりぼんやりと見ながら、私は小さくため息をついた。

「…なんだよ。」

 いつもと違う視線に気付いたお兄ちゃんが、訝しげに私を見る。

「…別に何でもないよ。」

 そう返事したものの、明らかにいつもとは違うことはバレバレだろう。

「気になるから言えよ。」

 そう言うお兄ちゃんから一度視線を逸らして下を向いて、少し考えてから、思い切って切り出した。

「お兄ちゃんは、私のこと…好き?」

「は?」

 何を言うんだって感じで眉をひそめたけど、でも

「まあ、そうなんじゃねえの?」

と答えてくれる辺り、やっぱりお兄ちゃんっていいなと思う。安心して、さっきまで無表情だった顔が笑顔になる。

「私もお兄ちゃんのこと大好きだよ。」

「あっそ。」

 お兄ちゃんはぶっきらぼうに答えて、二杯目となるジュースを飲み始めた。


 ふとテレビに視線を移すと、ドラマの中で男優さんと女優さんがキスしているところだった。そのシーンを見て、再び瑞穂に言われたことを思い出す。

“お兄ちゃんとキスとかエッチとかしたいと思うの?”

 エッチは勿論、キスだって、マンガや雑誌やテレビで見るくらいの知識しかない。そんな私に“キスしたいの?”と問われても、解るはずなんかない。

 じゃあ、お兄ちゃんは?

 お兄ちゃんならもう高校生だし、キスも、もしかしたらエッチもしたことあるかもしれない。

 経験済みかもしれないその行為を、私と出来るんだろうか。

「ねえ、お兄ちゃん…。」

「ん?」

 お兄ちゃんはジュースを飲んでいる姿勢のまま、目線だけ私に向けて返事した。

「あのさ…。」

 問いかけてから急に恥ずかしくなって口籠もる。その間にお兄ちゃんは三杯目のジュースに突入。

 よし、聞くぞ!私は恥ずかしい気持ちをなんとか押さえるように、心の中で気合いを入れて、体ごとお兄ちゃんの方に向いた。

「お兄ちゃんは、私とキスとか…、したいって思う?」

 その瞬間、お兄ちゃんは口からジュースを吹き出し、ゴホゴホと哽始めた。私は慌てて近くに置いてあったティッシュをボックスから何枚か抜き出して、お兄ちゃんが吐き出したジュースを拭く。

「お兄ちゃん、汚いよ。」

「…あのなあ。」

 お兄ちゃんはまだ哽ながら、私を睨んだ。

「お前のせいだろ!」


「何喧嘩してるの。」

 お兄ちゃんの発した大きな声は、キッチンまで聞こえたようで、お母さんがこちらを振り向き怖い顔をする。

「け、喧嘩なんてしてないよ。」

 慌てて答えた私の言葉を聞いて、お母さんは

「そう。ならいいけど。仲良くしてなさいよ。」

とだけ言って、料理を再開した。

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