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恋の基準値  作者: みゆ
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ヒトノココロ

 話題の中心は私から他の子へと移っていた。私は少しほっとしたけど、まだ顔の火照りが治まらなくて、それを隠すように布団に潜り込んだ。

 私は自分が恋をしているのかどうか、よく分かっていなかった。なのに、みんなに“恋してる”って言い切らせてしまうような行動をしていたなんて、恥ずかしくてたまらなかったしドキドキした。

 今までみんなの好きな人の話を聞いて、私も同じような思いをしたことがあると何回も思った。それは、ただの友達には感じることのない、特別な気持ちなんだ。私がそれを高瀬君に抱くってことは…。

 ――やっぱり私は、高瀬君に恋をしてるんだ。

 それを確信した瞬間、今までココロの中でモヤモヤしていた不確かだった何かが、はっきりとしたカタチをとり始めた。


 まだまだみんなの恋の話は盛り上がりをみせていて、私は自分の気持ちについて考えながらも耳を傾けていたけれども、暫くすると先生が消灯時間を過ぎたにも関わらず起きている私達を叱りに来たので、みんなおとなしく布団に入って電気を消した。それでもヒソヒソと話している子は何人かいて、眠れないでいた私は、その声を耳にしながら布団に潜っていた。

「ねえ沙和ちゃん?」

 私がまだ起きていることが分かったのか、隣の布団に入っている加奈ちゃんが小さな声で私を呼んだ。何人かの子はもう寝ているようで、微かに寝息が聞こえてくる。私はその子達を起こさないようにと同じように小さな声で、加奈ちゃんに返事をし、それを聞いた加奈ちゃんはやはり小さな声で私に話しかけてきた。

「沙和ちゃんが好きな人って、明日香ちゃんの彼だった人の友達でしょ?」

 その言い方に何か引っ掛りを感じたけど、そんなことよりも加奈ちゃんが言っている人が間違えなく高瀬君であるだろうということに、私はただ驚いていた。

 なんで加奈ちゃんは、言った訳でもないのに私の好きな人が誰かまでわかるの?相当カンがいいのか、それとも他人のことをよく見てるのか…。もしここで答えを誤魔化したとしても、加奈ちゃんにはすぐにばれちゃいそうだ。でもはっきりとそれを認めてしまうことに戸惑いを感じて、私は顔を布団で隠してから、何も言わずただこくんと頷いた。

 部屋は電気が消えていて暗かったけど、ドアの隙間から細く入ってくるほんの少しの灯りと、私と加奈ちゃんのそう離れていない距離のお陰で、加奈ちゃんには私の頭の動きが見えたらしい。

「やっぱりね。」

と小さく呟く加奈ちゃんの声が聞こえた。

 まだ明日香にも瑞穂にも認めていないこの想いを、他の子に先に伝えてしまった。罪悪感と、自分の気持ちを認めてしまったという恥ずかしさが、心の中でぐちゃぐちゃに入り交じる。でもその気持ちは、加奈ちゃんの

「大変だね。」

という言葉により少し治まった。

「え?」

 私は加奈ちゃんが何を言ったのかよく分からなくて、布団から顔を出して加奈ちゃんの方を見た。確か今加奈ちゃんは“大変だね”って言った。でも何が大変なのか、私には全然理解が出来ない。

 加奈ちゃんが更に言葉を続ける。

「だって明日香ちゃん、彼氏と別れたんでしょ?」


 別れてない!

 咄嗟に大声を出しそうになって、私は慌ててそれを堪えた。

 大きな声を出したら、寝てる子達を起こしてしまうかもしれない。それにまだ起きている子達にも気付かれて、今私達がしているこの会話に興味を持たれてしまう可能性もある。

 もし興味を持たれたとしても、明日香達はまだ別れていないはずだからそう告げればいいだけなんだけど、二人が上手くいっていないことや明日香が別れると私達に言ったことも話さなくてはいけない状況になってしまうかもしれない。でも私はそんな明日香の話を、この部屋にいるみんなに言うことになってしまうのは嫌だったので、加奈ちゃんに

「喧嘩してるだけだよ。」

と、冷静を装って小さな声で伝えた。

 それを聞いた加奈ちゃんは

「ふうん、そうなんだ。」

と微妙な返事をして、それから何も言わなくなった。

 加奈ちゃんは、明日香達が上手くいってないことも気付いてたんだ。その二人の様子を見て、別れたんだと思ったのだろう。確かに別れたって思っても不思議ではないくらい、明日香と田中君の状況は悪いと思う。一緒にいることは勿論、話すらしないし。

 さっきの返事からすると、加奈ちゃんは私の返答に納得してないって感じだった。けど、仲直りするって信じたいから、いたずらに二人の話をしたくはなかった。

 それより、さっき加奈ちゃんが言った“大変だね”というセリフはなんだったのだろうか。加奈ちゃんは明日香達が別れていると思って言った言葉みたいだから、二人が別れた訳ではないこの状況では関係ないのかもしれないけど、でも、もしかしたら…ということもある。

 私は加奈ちゃんが言おうとしていたその話が気になって、黙ってしまった加奈ちゃんに

「ねえ、加奈ちゃん。さっき“大変だね”って言ってたけど、何が大変だって思ったの?」

と、思い切って尋ねてみた。

 加奈ちゃんは私の問いかけを聞いてからも暫く無言のままでいたけれど

「私と同じ部活の子の話なんだけど…」

と、小さな声で話し始めた。

「その子がね、友達の彼の友達を好きになったんだって。でもその友達はその彼と別れちゃったらしくて…。」

 まるで私と明日香のようだ。

 明日香達はまだ別れた訳ではないけれど、そうなる可能性も無い訳ではなくて…。私の心はざわついた。

「で、その友達は、今まではその子の恋を応援していたのに、別れた途端、逆に嫌がるようになったんだって。…多分、自分の友達が…直接元彼と仲良くしてる訳じゃないけどさ、その彼の友達と仲良くするのが嫌だったんじゃないかな。」


 “まあ、明日香ちゃんがそうとは限らないけど”とか“二人が別れてないなら関係ないけど”とか加奈ちゃんは付け加えたけど、私の心の中のざわざわは治まらなかった。隣で寝ている加奈ちゃんの寝息を聞きながら、私は眠れない夜を過ごした。

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