表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の基準値  作者: みゆ
23/58

悲しい選択

 お母さんが運んできてくれた夕食を食べている時もその後も、明日香は何も喋らなかった。落ち着いたら話してと明日香に言った手前何も聞くことが出来ず、私と瑞穂は他愛ない話をしたり、度々涙ぐむ明日香を見て困って顔を見合わせたりしながら時間を過ごした。

 そんな事をしているうちに夜も更けてしまったので、そろそろ寝ようかと布団を敷いて、電気を消した。正直明日香の事が気になって眠れそうにもなかったけど、いつまでも起きている訳にもいかない。それに一晩寝れば、明日香も少しは落ち着くんじゃないかと思ったから。

 電気を消して暫くした時、私と瑞穂の間に寝ていた明日香が

「ごめんね。」

と呟くように言った。

 今日久々に聞いた明日香の声は弱々しくて、私は不安に似た気持ちを抱えながら明日香の方を向いた。暗くてよく見えないけど、布団の擦れた音で、瑞穂も同じように明日香の方を向いたのが分かった。

「ちょっとは落ち着いた?」

 明日香の謝る言葉の後少し間を置いて、瑞穂がそう明日香に尋ねた。その返事は直ぐには返って来なくて、代わりにすすり泣くような声が聞こえてきた。

 それを聞いて、私達はまた何も言えなくなって、明日香の方を向いたままただ黙っていた。すると暫くして、明日香が涙声で

「ごめん、まだ、ちょっと無理。…明日絶対話すから。」

と言ってきた。

「うん、分かった。とにかく今日は寝よ。」

 明日香の言葉を聞いて私はそう言うと、眠れそうもないけど、とりあえず目を閉じた。


 翌日、朝食を食べ終わり、二人を送る為に家を出る。キッチンから顔を覗かせたお母さんは一瞬心配そうな顔を見せたけど、二人に気付かれないうちにいつもの笑顔を見せて、私達を見送った。

 昨日明日香がいた公園の先の十字路を右に曲がれば明日香の家、左に曲がれば瑞穂の家に辿り着く。そこまで行ってしまえば、それぞれが別の道を行かなければいけない。明日香の話をまだ聞いていなかった私と瑞穂は、ここでバラバラなって帰ることが出来なかったし、明日香も明日香でちゃんと話がしたかったのだろう、誰からともなくその公園の敷地内に入り、片隅のベンチに座った。

「昨日、ごめんね。それと、一緒にいてくれて、有難う。」

 ベンチに座り最初に声を発した明日香の表情は、まだ何処か無理をしているようにも見えたけど昨日は見せなかった笑顔だったので、少しほっとした。

「別にそんなのいいよ。」

と瑞穂と二人で明日香に告げた後、また沈黙が流れた。

 公園はお母さんに連れられた子供たちで賑わっていて元気に遊ぶ声が和やかな空気を作っている。春になったせいか、風はまだ冷たいけど日差しがポカポカと暖かく降り注いでいて、昨夜よく眠れなかった私達にとって、まさに眠りを誘うような空間がここにはあった。なのに、私達の周りにだけ張り詰めた空気が流れているように感じて、眠気が来るどころか落ち着くことが出来ずにいた。

「話せる状態になった?」

 そんな空気に耐えられなかったかのように、瑞穂が明日香に問いかけた。明日香はそれを聞いてコクンと頷いたけれど、暫く唇を噛んで黙っていた。でも頷いた手前言わなきゃいけないと思ったのか、俯いたまま口を開いた。

「私…、田中と別れる。」


「なんで?!」

 ほぼ同時に私と瑞穂はそう声を上げた。

 明日香と田中君が別れるなんて、そんな話、考えてもみなかった。春休みに入る前の二人は、そんな事を思わせない程仲良く見えた。確かに喧嘩もしてたみたいだけどすぐ仲直りしてたし、それは以前よりずっと仲良くなった証拠だと思っていた。それに、この前遊園地に行った時だって楽しそうにしててそんな素振りは見せなかったのに、なんで急に…?

 私と瑞穂の驚きの声を聞いた明日香の目に、涙が浮かんだ。それを見て、私達はまた何も聞けなくなって、でもじっと明日香を見つめた。

 明日香にしてみれば、いくら話せる状態になったとはいえ、まだ悲しみは少しも癒えていないんだろう。明日香の気持ちが分からない訳ではないけど、でも、どうしてあんなに仲が良かった二人がそんな悲しい選択をしなきゃいけないのか、どうしてもその理由が知りたかった。理由が分からなければ、明日香に何て言ったらいいのかも分からない。

「何で、別れるの?」

 私と同じ事を瑞穂も思っていたのだろう。私には聞くことが出来なかったことを、瑞穂が口にした。

 明日香は、涙を堪えるように暫く唇を噛みしめていたけど、でも耐えきれなかったらしく、涙が頬を伝った。

「明日香、泣かないでよ。」

 私は、お兄ちゃんが私を慰める時にしてくれるように、明日香の頭を抱えるようにしてポンポンと優しく叩いた。瑞穂は手を明日香の背中に置いて

「話してくれなきゃわからないよ?」

と、明日香の顔を覗き込んだ。

 暫くそうしていると、ようやく明日香が口を開いた。

「…高校…。」

「え?」

 その声が消えそうに小さかったので、私達は明日香の顔を覗き込むようにして聞き返した。

「高校…、同じ所行きたいってずっと言ってたのに、違う所行くって、田中が…。」

 明日香は涙を流しながら、さっきよりは大きな、でもやはり小さな声で私達にそう告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ