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恋の基準値  作者: みゆ
22/58

 沈黙が続く中、私は部屋の時計をちらっと見た。

 明日香を家に連れてきてから十分経過している。瑞穂に連絡したのは明日香を迎えに行く前だから、瑞穂の塾の場所を考えてもそろそろ来てもいい頃だ。

 そんな事を考えていたまさにその時、玄関のチャイムが鳴った。きっと瑞穂が来たんだ!

 明日香と二人の、この部屋の沈黙に耐え切れなくなっていた私は、チャイムの音に反射的に立ち上がった。そんな私を、明日香が赤い目をして見上げる。

「あ、瑞穂もね、家に来るって言ってたの。だから…多分瑞穂だと思うんだ。ちょっと行ってくるね。」

 明日香の様子に気圧されてびくびくしながらも、私はそう言って部屋を出た。

「遅くなってごめん。」

 玄関に行くと、やっぱり来たのは瑞穂で、急いで来たのか息を切らせながら立っていた。

「帰り際に塾の友達に捕まっちゃって…。」

 瑞穂はそう言い訳をしてきたけど、私にはそんな事どうでもよくて、ただ瑞穂が来たことに心から安心していた。

「とりあえず、先に私の部屋に行ってて。私は何か飲み物持っていくから。」

 瑞穂を部屋に行かせて、私はキッチンへ向かった。


 キッチンでは、お母さんが夕食の支度をしていた。私はその後ろを通り抜け、食器棚からグラスを三個取り冷蔵庫へ向かった。

「沙和。」

 そんな私に気付き、お母さんが声を掛けてきた。

「明日香ちゃんの様子どう?」

 明日香が来た時は何も言わなかったけど、やっぱりお母さんも明日香のことが気になってたようだ。私はその問いかけに何も言わず、ただ首を横に振った。

「そう…。」

 お母さんは私の動作を見てため息混じりにそう言うと、少し考えてから

「もし良かったら、今日泊まっていってもらえば?」

と告げた。

「いいの?」

 私はグラスに注いでいたオレンジジュースのパックを置いて、お母さんを見た。

「うん、勿論二人が良ければの話だけど。お家にはお母さんから連絡するから。」

「わかった。聞いてくる。」

 私はジュースをそのままにして、部屋へと急いだ。

 部屋に入ると中は相変わらずの沈黙で、赤い目をして俯いている明日香と、明日香に向かい合うように座っている瑞穂の姿が目に入ってきた。そんな空気を目の当たりにして言葉を発するのが躊躇われたけど、でもお母さんの提案を二人に言わない訳にもいかないので、勇気を出して

「お母さんが良かったら泊まって行けばって言ってるんだけど、どう?」

と二人に尋ねた。

「いいの?」

 それを聞いて言葉を発したのは瑞穂だった。

「うん、勿論だよ。二人の家にはお母さんが連絡してくれるって。じゃあ瑞穂はO.K.だね。…明日香は?」

 私は恐る恐る明日香を見て、瑞穂もそれに釣られるように明日香を見た。明日香は一瞬私に目を向けたけど再び俯いて、少しの間の後コクンと頷いた。

 私はそれを見て

「じゃあ、二人共泊まるって言ってくるね。」

と言って、再びキッチンへ向かった。


 お母さんが私から二人の答えを聞き、それぞれの家に電話を入れる。私はその傍らに立って二人の家からの了承の言葉を聞くと、今度こそジュースを持って二階に上がった。

 部屋の扉を開け、“泊まってもいいって”と言い掛けた時、明日香の泣き声が再び耳に入ってきて、私は何も言えなくなってしまった。ふと瑞穂に目を移すと、瑞穂は困ったような顔をしながら私を見上げている。

 私はジュースの入ったグラスをトレイごとテーブルに置き、瑞穂の横に座って

「どうしたの?」

と耳打ちした。すると瑞穂は困った顔をしたまま

「“何があったの?”って聞いたら、泣いちゃって…。」

と、明日香に聞こえないように小さな声で答えた。

 やっぱり…。私はため息をついた。何か言ったら明日香は泣きだしてしまう、その考えは間違ってなかったんだ。

 いざという時に人の顔色を伺ってしまう私に対して、瑞穂は何事もはっきりさせたいタイプだ。明日香の事にしても、何があったのか聞かなきゃ気が済まなかったのだろう。

 泣いている明日香にも、泣かせてしまった瑞穂にも、何て声を掛けたらいいのかわからなくて、私はとりあえず落ち着こうと、持ってきたジュースを一口飲んで瑞穂を見た。

「瑞穂もジュース飲みなよ。」

とグラスを渡すと、瑞穂は

「うん。」

と頷いて凄い勢いでジュースを飲み始めた。

 明日香にも

「明日香も。ジュース飲んで。」

とグラスを渡す。明日香は無言で頷き、涙を拭いながらジュースを飲み始めた。

 明日香が何も言わないのは、言いたくないからなのか、それとも言えないのか。私に電話をしてきたということは、きっと言いたくない訳ではないんだろう。ただ今はまだ気持ちが高ぶっていて、その原因を思い出すと泣きだしてしまうんだと思う。

「今日、泊まっていいって言われたから。だから話すの、落ち着いてからでいいからね。」

 私は明日香にそう言い、それを聞いて明日香はまた涙を浮かべながらも頷いた。

 二人とも相当喉が乾いていたのか、グラスの中のジュースはあっという間に無くなってしまった。私はオレンジジュースのパックを取りにキッチンへ向かった。

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