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恋の基準値  作者: みゆ
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好きの違い

 ふと気が付くと、放課後の教室の中は、人が疎らになっていた。みんな帰る支度をして、どんどん教室から出ていっている。

「そろそろ行こうか。」

 明日香の声に頷き、私は立ち上がりコートを羽織った。

「瑞穂は?」

「今日は塾ないから、私も一緒に行くよ。」

 部活をしていない私達が放課後決まって行く場所。それは校庭の鉄棒の近くの、野球部が部活を行なっている場所。

 野球部には、明日香の彼氏の田中君が所属していて、私はそれを応援する明日香に付き合って、いつも校庭の隅の決まった場所に行っていた。今日は瑞穂も一緒だから、三人でその場所に向かう。

 途中、ジャージやユニフォームを着た人達とすれ違う。きっとこれから部活なんだろう。

 あんな格好で寒くないのかなあ…。

 私達はコートとマフラーと手袋という重装備で校庭に出た。

 いつもの場所に着くと、明日香が田中君を見つけて手を振った。田中君もそれに気が付いて、少しだけ手を上げてから部員が集まっている所に走って行った。


 地面は雪の所為でぬかるんでいて座れないので、私達は鉄棒に凭れ掛かって野球部の練習を見る。

 しばらく三人共無言でいたけれど、ふと瑞穂が明日香を見て口を開いた。

「…さっきの話だけどさあ…」

「え、さっきのって?」

 明日香は何の事を言われているのか解らなかったみたいで、聞き返した。

「進路の話。」

「…ああ、何?」

「明日香はやっぱり田中君と一緒の高校に行くの?」

 明日香がなんて答えるのか気になって、私も顔だけ横に向けて明日香を見た。

 明日香はちょっと照れ臭そうにへへっと笑って、

「うーん、そうしたいなあ…とは思ってるんだけどね。」

と言って、田中君がいる方向を見た。

「やっぱりそうか。」

 瑞穂はからかう様な目付きで明日香を見てる。私も笑って

「やっぱりそうだよね。明日香の気持ち解るな。」

と頷いた。

「何で沙和が解るのよ?」

 怪訝そうに尋ねてくる瑞穂。

「え、解るよ。私だってそうだもん。」

 そう答えると、瑞穂がため息をついた。

「あのねえ、あんたが言ってるのは、お兄ちゃんのことでしょう。明日香とは全然違うじゃない。」

「どうして?一緒だよ。」

「違うの!」

 私の言葉に、瑞穂と明日香が口を揃えて反論した。 私は納得いかなくて、ほっぺを膨らまして二人を睨む。二人は顔を見合わせてため息をついてる。

「仕方ないよ。沙和はまだおこちゃまだから。」

「そうだね。」

 呆れたように笑う二人。

「おこちゃまじゃないよ!…じゃあ聞くけど、私の“好き”と明日香の“好き”と、どう違うの?」

「まず他人であること!これ重要。」

 間髪入れずに瑞穂が答えて、明日香はそれにウンウンと頷く。私はちょっと尻込みしたけど、負けじと反論。

「そ、そんなの関係ないよ!他人だろうが身内だろうが、好きっていう気持ちは一緒だよっ。」

「だから、違うの!」

 またしても瑞穂に反論され、上目遣いで睨みながらも押し黙る。そんな私を瑞穂は呆れた顔で見る。

「じゃあ聞くけど、沙和は、お兄ちゃんと手を繋いだりデートしたいって思うの?」

「思うよ。」

「もおっ!じゃあさっ、」 ムキになったのか、瑞穂の声が大きくなった。

「お兄ちゃんとキスしたりエッチしたりできる訳っ?!」

「ちょ…ちょっと、瑞穂っ。」

 さっきまで面白そうに私達のやりとりを聞いていた明日香が、慌てたように瑞穂を小声で制した。

「声大きいよ。聞こえてる。」

「え…?」

 顔の向きはそのままに目線だけそろ〜っとグランドに向けると、近くにいた野球部員達が私達を横目でじろじろ見ていた。瑞穂の顔が一気に赤くなる。

「もう恥ずかしいじゃん!」

 私も恐らく真っ赤になっているだろうほっぺを両手で隠して、再び瑞穂を睨んだ。

「だ…だって、沙和があまりにも言い張るから…。」

 瑞穂は明らかに動揺していたけど、冷静さを取り戻すようにコホンと咳払いして、私に言った。

「と…とにかく、そういうことで、明日香と沙和の好きは全然違うの。解った?」

「う…うん。解った、多分…。」

「そ?なら良かった。…じゃあ私帰るから。」

 其処にいるのが居たたまれなかったのか、瑞穂は私の返事を聞くと同時に、足早に校庭から立ち去った。

「ちょ…、待ってよ瑞穂〜。」

 私と明日香も、急いで瑞穂の後を追いかけた。

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