疲れた〜
色んなドキドキを乗せて、車は遊園地に到着した。
「やっと着いたね。」
明日香の嬉しそうな声に、
「そうだね。」
と同意して、私ははあっと大きく息を吐いた。
遊園地に向かう車の中では、明日香やおじさんや彼女のゆみさんと色々話したけど、何を話したかよく覚えていない。
後ろに乗っていた男子二人がほとんど会話に入って来なくて、それが凄く気になって。でも話し掛ける切っ掛けがなくて、ずっとどうしようと思っていたし、それに、他の人と喋っていても、また高瀬君に変な奴だと思われたくなくて言葉を選んだりしていたから、妙に気疲れして、時間が長く感じた。逆に話し掛けるタイミングを図っていたのに全然話せないままだったから、もう着いちゃったの?とも思ったけど。
はしゃぎながら入園ゲートに走る明日香の後を追いかけ、遊園地に入る。ゆっくり歩いて来る男子二人とおじさん達を待っていると、明日香が耳元で
「沙和、さっき言った通り、おじさん達とは別行動ね。」
と囁いてきた。
「田中、早く!」
と明日香に呼ばれ、走って来る田中君と後を追う高瀬君を待って、明日香が
「じゃあね、おじさん。ここからは別行動ね。」
と、五メートル程離れた所を歩いているおじさんに大きな声で告げて走りだした。私と男子二人はそれを追いかける。
「ちょっと待て!」
後ろからおじさんの引き止める声が聞こえたけれど、明日香は止まろうとしない。ふと気になって、おじさん達の様子を見ようと後ろを振り向くと、猛スピードで追いかけて来るおじさんの姿があった。
「…ちょっと、明日香。」
それを教えようと、息切れしながらも明日香を呼ぶ。
「何?」
「おじさん、追いかけて、来てるよ…。」
「え、マジ?」
私の言葉を聞いて後ろを振り向く明日香につられて再度後ろを見ると、おじさんはまさに私達に追い付こうという所に来ていた。
「ヤバイ!みんな、もっと速く走って!」
と慌てたように明日香に言われたけど、私はもう疲れてしまって、速く走るどころか歩きたい気分だった。
おじさんの足はかなり速いらしくて、すぐに私達に追い付いて明日香の腕を掴んだ。観念したように明日香の足が止まり、それを見てやっと休めると安心しながら私も立ち止まり、はあはあと肩で息をした。少し前を走っていた男子達は、いつも野球部で鍛えられてるせいか平然とした顔をしていて、流石だなあ…と、妙に感心してしまった。
「なんで?別にいいじゃん。」
抗議するような明日香の声が聞こえて、私は明日香とおじさんの方に目を移した。
おじさんは流石に疲れた様子でかなり呼吸を荒くしているけれど、それでも明日香の腕を掴んだまま放そうとしない。
「おじさんだってゆみさんと二人でデートした方がいいでしょ?私達は私達で遊ぶから、おじさん達も二人で遊びなよ。」
「駄目。」
明日香の言葉をおじさんはきっぱりと否定して
「何かあったら困るだろ。一緒に行動するって条件で叔母さんにもみんなのお母さんにも了承してもらってるんだから、ちゃんと言うこと聞く。」
と、明日香に告げた。“叔母さん”ていうのは、多分明日香のお母さんのことなんだろうな。
「そんなの言わなきゃ判んないじゃん。」
と、明日香は更に食い下がるけど、おじさんは“駄目”の一点張りだ。
そんな二人のやり取りは暫く続いて、正直私は、別に一緒でもいいのに…と思い始めた。田中君と高瀬君も、面倒臭いような呆れたような顔で明日香を見てる。ゆみさんはおじさんの後ろで苦笑いしてる。
あまりの明日香の聞き分けのなさに業を煮やしたのか、おじさんが
「あまり我が儘言うと、昼飯奢ってやる話、無しにするぞ。」
と、明日香に言った。
「えー、何で!それとこれとは話が別じゃん!」
「別じゃない。言うこと聞かない奴には奢ってやろうとも思わないからな。」
明日香が口を尖らせおじさんを睨む。おじさんも無言でじっと明日香を見据える。
「…わかったよ。」
ようやく諦めたのか、明日香はそうおじさんに告げ、それから私達に
「いい?」
と訊ねてきた。
「いいよ。」
と私が言い、田中君と高瀬君も同意する。
「じゃあ、今日一日団体行動と言うことで。よろしく。」
おじさんの言葉に、私達は素直に
「はい。」
と返事した。