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恋の基準値  作者: みゆ
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昨日の出来事 2

 授業が始まったけど、先生の声は全然耳に入って来なかった。

 私はボーッと黒板を眺めていた。傍からしたら真剣に授業を聞いているように見えるかもしれない。でも私の頭の中は、さっきの明日香の話で一杯だった。

 マンガやテレビでしか見た事がない“キス”という行為。たまにクラスの女子が“○組の子は経験あるらしいよ”って言ってるのを聞いたことはあるけど、身近の、それも仲のいい友達が、そういう事をしたと聞くのはは初めてだ。

 彼氏が出来たらいつかする事なんだっていうのは知ってる。だから明日香と田中君がキスしても、おかしくはないのかもしれない。でもそういうのって、大人の人がする事だって心の中では思ってたから、中学生なのにいいの?って気持ちもあるし、明日香はもう大人なんだっていう、羨ましいというか尊敬するというか、そんな想いもあった。でも何より、キスってどんなものなんだろう…ていう興味が一番大きかった。

 やっぱり、田中君からしたのかな?それとも明日香?どうしてそういう状況になったんだろう。

 明日香の話を聞くまで悩んでいたことなど忘れ、そのことばかりが頭の中を駆け巡る。妄想と疑問がどんどん膨らむ。

 明日香の話の続きが聞きたい。だから、早く授業終わらないかな。



 二時間目は理解室で実験だ。

 一時間目が終わると、私は急いで移動教室の準備をして明日香の元に向かった。すると瑞穂がもうそこにいて、明日香を急かしていた。

 きっと瑞穂も明日香の話が気になって仕方なかったんだろう。先生が来る前に興味津々な目で明日香を見ていたし。

 まだ休み時間が始まったばかりなのに、私達は教科書を持って教室から出た。別に教室で話してもいいんだけど、そうするとまた話に夢中になって教室を移動するとき急がなきゃいけなくなりそうだから、歩きながら話した方がいいかと思ったのだ。

 明日香を真ん中にして、瑞穂と私が両側からぴったりとくっついて歩く。明日香は居心地悪そうにしてるけど、そんなのお構い無しだ。

「で、どうだったの?」

 話を切り出したのは瑞穂だった。

「どうだったのって…。」

 明日香は顔を赤くする。

「そんなの、分からない。」

「なんで分からないの?」

 疑問に思って問いかけると

「だって…緊張して、よく覚えてないよ。」

という返事が返ってきた。

「緊張したってことは、一応予告はあったんだ。」

「予告っていうか…。“キスしていい?”とは聞かれたけど…。」

「それで?」

「…“うん”って言った…。」

 小さく途切れ途切れに語られる明日香の話に、なんだか私まで恥ずかしくなって、顔が赤くなるような気がした。明日香、本当に経験しちゃったんだ。もし自分が…って考えたら、想像も出来ない凄いこと。…本当、凄い。明日香ってもう大人なんだ。

「じゃあさ、した感想は?」

 瑞穂が続けて明日香に問いかけると

「それは…」

と言ったところで明日香の声が途切れ、同時に足が止まった。そして何かをじっと見ている。

 不思議に思い明日香の視線を辿ると、そこには数人の男子と話している田中君の姿があった。

 田中君が明日香に気付いた。

 明日香が

「あ、…お、おはよ…。」

と少し上ずった声で挨拶をする。田中君も赤い顔になって仏頂面で

「…おう。」

と挨拶をした。

 叫びたくなるくらい照れ臭い二人の姿を見て、周りの男子はどう思ってるんだろうと目を移したら、そこに高瀬君がいた。

 彼を目にした瞬間、身体が固まった。

「ちょっと、こっちが恥ずかしくなるよ。ね、沙和。…沙和?」

 私の異変に気付いた瑞穂が顔を覗き込んでくる。それには気付いているのだけど、返事が出来ない。まるで金縛りにあったみたいに、身体も視線も動かすことが出来ず、高瀬君を凝視していた。

 高瀬君が私に向かって会釈する。

 私はそれに、大袈裟だろうという位大きく首を上下に振って応えた。

 心臓がこれまでにない程大きな音を立てた。そして物凄い動揺に襲われた。

 明日香の話の衝撃ですっかり忘れていたので、何を言ったらいいのか全然考えていなかった。まさかこんなに早く会ってしまうなんて…どうしたらいいの!?

 視線の端に、田中君達が去って行く姿が見えた。

 高瀬君も一緒に行ってしまえば、何も言わなくて済む。でも、それも…、ちょっと嫌だ。

 矛盾した自分の考えに更に混乱する。私、どうしたいの?


 高瀬君が、去って行く田中君達をちらっと見た。そして一瞬間を置いた後、何故か私達の方に近寄ってきた。

 なんで?

 私は更に動揺する。心臓の音がうるさい。

 高瀬君は私の前に立ち止まり、相変わらずの表情で

「…昨日、ありがとう。」

と言った。

 私は何に対してお礼を言われているのか全然解らなくて、

「な、なに?お礼を言うのは私の方だよ。本当、ありがとう。なのに私あんな残り物みたいなチョコあげちゃって、それで…。」

と思ったままの言葉をまくし立てた。

 高瀬君はじっと私の言葉を聞いて、そして

「…美味しかった。」

と、ボソッと言った。

「え?」

「チョコ、美味しかった。」

 相変わらず心臓はうるさかったけど、不思議と動揺が消えた。

 高瀬君はそれだけ言うと、田中君達を追って小走りに去って行った。


 そっか。チョコ、美味しいって思ってくれたんだ。

 去って行く高瀬君を見ながら、私は自分の顔がにやけるのが判った。


「ちょっと、何今の?」

 瑞穂の声に、はっと我に返る。

「昨日何があったの?ねえ。沙和?」

 昨日あった事を二人に言うかどうか迷っていた私は、二人の質問攻めに、結局言わざるをえなくなってしまった。

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