表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の基準値  作者: みゆ
10/58

帰り道 1

 放課後になっても、学校の中はソワソワした雰囲気でいっぱいだった。チョコレートを手にしてお目当ての男子を探している女子や、意味もなく教室に居座る男子。

 私はそんなみんなの行動をチラチラと見ながら、明日香と一緒に校庭のいつもの場所に向かった。


 いつもは野球部の練習を途中まで見て帰るから知らなかったけど、部活が終わる頃には冬のせいもあり辺りは真っ暗になっていた。そんな中、明日香と一緒に田中君を探して、野球部の部室の前に辿り着く。

 丁度部室に入ろうとしていた田中君を明日香が呼び止め、私はちょっと離れた所で二人の様子を見ていた。

 嬉しそうにチョコを渡す明日香と、少し照れたようにそれを受け取る田中君。 そんな二人のやり取りや表情が、なんだか羨ましかった。

 私もお兄ちゃんやお父さんや先生にチョコをあげて、確かに嬉しそうにはしてもらえたけど、それとは何かが違った。廊下や教室で騒いでた子達もそう。大変そうだなとは思ったけど、でも、どんな表情にしてもすごく女の子っていうか大人っぽいっていうか、そんな雰囲気が漂ってた。

 私は、多分そんな雰囲気なかっただろうな。ただ純粋にチョコをあげるという行為が嬉しくて、女の子とか男の子とか考えたりしてないし。そんな皆とは違うのだろう。

 そんな事を考えていたら、以前瑞穂に言われたことをふと思い出した。

 明日香と私の“好き”の違い―。

 それは、今日私が羨ましく思った女の子の顔してた子達と私の違い。

 そこにはきっと、何か、私の知り得ないものがある。私が知らないことを彼女達が知っているから、だから羨ましいって思うんだ。


 暫くして、明日香が嬉しそうに、でも申し訳なさそうな顔をしながら私の側に駆け寄ってきた。私ははっと現実に戻って、

「おかえり。」

と明日香に言う。

 それを聞いた明日香は、少し躊躇ってから手を顔の前で合わせて、

「ごめん沙和、今日田中と帰ってもいい?」

と言ってきた。

「いいよ。」

 私は笑顔で答える。

 すると私の答えを聞いて、明日香はなんだか複雑そうな顔をした。

「どうしたの?」

「あのさ、田中と二人で…なんだけど、いいの?」

 あ、そうか。

 今日はバレンタインデー。

 付き合ってる二人が二人だけでいたいって思っても、不思議じゃないのかもしれない。

 私は再び笑顔を作って

「勿論いいよ。」

と明日香に告げた。



 そうは言ったものの、暗い中を一人で帰るのは怖い。

 でも今更明日香に“一緒に帰ろう”とも言えず、私はとぼとぼと校庭から出た。

 突然ガシャンッという音が聞こえて、私はビクッと肩を震わせ音のした方向を反射的に見た。

 その音がしたのは自転車置き場で、そこには今から帰ろうとしている自転車通学しているらしき一人の男子がいた。

「あ、…高瀬君。」

 それは野球部の、あの時ボールを取ってくれた高瀬君だった。

 明日香に彼の名前を聞いて以来、野球部の練習を見に行くたびに目に入ってきて、すっかり顔も名前も覚えてしまった。その彼が自転車を出そうとした状態で、睨むような目付きで私を見ていた。どうやら私が独り言で発した彼の名前が聞こえたらしい。

「あ、こんばんは。」

 不本意ながらも彼の名前を呼んだ状態になってしまったので、とりあえず挨拶をすると、彼もいつもの不機嫌そうな顔をして

「…こんばんは。」

と返してくれて、そしてまだ私のことを見ていた。

「今練習終わったの?大変だね。」

 彼の視線に、何か言わなきゃいけないような気になって、練習が終わったことなど知ってるのにそんな事を口走る。でも頭の中では、なんで見てるんだろうという思いがぐるぐると廻っていた。

 そういえば、高瀬君は私のことを知っているのだろうか。いつも野球部の練習を見に行ってるから私のこと見た事位あるかもしれないけど、クラスも違うから名前もそして同じ学年ということすら知らないかもしれない。そんなよく知らない女子に名前を呼ばれて、高瀬君、不審に思ってるのかも。

「あのね。」

 そう思った私は、とりあえず自己紹介することにした。

「私、五組の山口沙和。明日香の…、あ、明日香っていうのは田中君の彼女なんだけど、その明日香の友達で、よく野球部の練習も見に行ってるんだけど…」

「…知ってる。」

 私がまくし立てるように話すと、高瀬君からそんな返事がきた。

 …知ってたんだ。

 なんだか恥ずかしくなって、顔が赤くなった。それに気付かれないように

「そうなんだ。じゃあね。」

とだけ言って、私は早足で歩き始めた。

「ねえ!」

 すると高瀬君が私を呼び止めるように声を発した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ