進路調査
「どこにするか決めた?」
明日香がホームルームで配られた用紙をヒラヒラさせながら、瑞穂と私の所に寄ってきた。
「私は多分一高かな。」
瑞穂が答える。
「そっか。瑞穂頭いいもんね。」
明日香はため息をついて、近くの席に座った。
冬休みが終わってすぐのホームルームで配られた『進路調査』の用紙。中学二年の私達にとって受験なんてまだ一年程先の話。きっと昨日までは、ほとんどの人が進路のことなんて考えていなかったと思う。
それにもかかわらず、教室の中はその話で持ちきりになっていた。
仲のいい友達同士で同じ高校に行こうだの、あの高校はサッカーが強いからそこにするだのといった会話が、教室のあちらこちらから聞こえてくる。
進路調査の用紙を見ながら周りの会話に耳を傾けていた私に、明日香が声を掛けてきた。
「沙和は?」
「え、私?私は…」
「そんなのもう解ってるじゃん。」
瑞穂が笑いながら私の言葉を遮った。
明日香は瑞穂と私を交互に見て、一瞬考えてから
「ああ、そっか!」
と、大きな声を上げた。
「東高だよね?」
「そうそう。大好きなお兄ちゃんのいる東高。」
「そうだよねえ。」
二人は笑いながら私の志望校に納得し合っている。
「ちょっと、私まだ何も言ってないのに。どうして勝手に決めつけるの?」
膨れながら言った私の言葉に、
「じゃあ違うの?」
と、瑞穂が“絶対そうでしょ”と言わんばかりの確信しきった表情をする。思わず“うっ”と口籠もって、それからちょっと視線を逸らして私はモゴモゴと答えた。
「…まあ、そうしようかな、とは思ったけど…。」
「ほらね。」
瑞穂がニヤニヤしながら私を見る。
「沙和はブラコンだもんね。」
明日香もニヤニヤしながら私を見た。
「ブラコンじゃないもん!」
確かにお兄ちゃんのことは好きだけど、それって普通だよ。兄妹の仲が良くて何が悪いの?
でも二人にしてみれば、私のお兄ちゃんが好きな度合いは普通じゃないらしく、幾度もこうしてからかわれている。明日香も瑞穂もお兄ちゃんがいないから解らないだけなんだよ、きっと。
「そう言う明日香はどうなの?」
自分に向いた、からかうような視線を逸らそうと、私は最初にこの進路の話を持ち出した明日香に話を振った。
「えー…。」
明日香は困ったような表情をして私を見た。
「…まだ解らないよ。だから聞いたんじゃない。」