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47話

「お、俺の聖剣が⋯⋯」

「ランp⋯⋯ごほん。刀身が砕け散ってみるも無残な姿だな」

「テメエ今ランプって言おうとしただろ!俺が手間暇かけて育てた聖剣を工事現場のピカピカしてる棒なんかと一緒にすんじゃねえ!」

「育てた聖剣?」


聖剣というのはいつから育てるものになったのだろうか。いや、元の世界になら自分だけの聖剣を作るゲームとかもありそうだが、ここは異世界だ。

そんなゲームみたいな面白スキルがあるとは思えない。

思えないのだが⋯⋯


「ブフッ!げほっごほっ⋯⋯」

「い、いきなりどうした」

「げほっげほっ⋯⋯くくっくくくっ」

「お、おいおいなんだこいつ気でも触れてんのか」


実際に勇者(笑)のスキルはどんなものかと気になったので、『万象の書架』でステータスを覗いて見たのだが、予想外の情報に思わず吹き出して噎せてしまった。

おかげで勇者(笑)に変人でも見るような目で見られてしまっている。後で一発ぶん殴ろう。

だが、『万象の書架』のおかげで、聖剣を育てるという言葉の意味がわかった。まあ実際には意味が分かるどころかほんとにストレートな表現だったのだが。


「いやはやまさか本当に聖剣を育てるスキルだとは思わなくてな。どこの育成ゲームだと言いたいくらいだ」

「なっ⋯⋯」


煽られてるとでも思ったのか、勇者(笑)が怒りで顔を真っ赤にするが、そんな些事よりも今は勇者(笑)の持つスキルだ。

手にした武器を聖剣にする『聖剣化』──そんなスキルがあるのかは知らんが──のスキルだと思っていたのだが、『万象の書架』で得た勇者(笑)のスキルは予想の遥か上を行っていた。


『 聖剣育成』


それが勇者(笑)の持つスキルの名前だ。

いやまず名前が面白すぎる。

さっき推測した『聖剣化』も相当だが、さらにその上をいく『聖剣育成』だ。名前になんのひねりもない。

効果も、名前の通りスキルによって召喚した聖剣を育成して強化していくというもの。

魔物などを聖剣で切り殺したり、自分の魔力を聖剣に与えることで、聖剣を育てることが出来るらしいのだが、異世界からの召喚者だからか知らないが、随分日本に毒されてそうなスキルだ。

ちなみに、先ほど木刀に無残にも刀身を粉々に砕かれた聖剣(自称)は、勇者(笑)がこの世界に召喚された直後に、スキルによって召喚したものらしい。

腐っても聖剣というべきか、なかなか成長しない聖剣を根気強く育て、ようやく(勇者(笑)的に)いい感じに育ってきたところで、見るも無惨な姿にされたわけだ。

喧嘩をふっかけてきたのは勇者(笑)なので同情するつもりは無いが、それは確かに絶望感を感じるだろう。


「しかも木刀、それも数秒で作れるような木刀に折られたわけだしな」

「はあ!?テメエ人をおちょくんのも大概にしろよ!あんなふざけた木刀が数秒で作れるわけねえだろ!」

「ん?ああ、声に出てたのか」


"今は"更に煽るつもりは無かったのだが、考え事をしていたらついついそのまま口に出してしまっていたらしい。

俺の言葉に噛み付いてくる勇者(笑)だが、勇者(笑)にとっては残念なことに、誘導灯(聖剣)をへし折る木刀を作るのには五秒もあれば十分すぎる。

もっとも、『不壊』の特性で並大抵のことでは折れるどころか凹みすらつかないのだし、わざわざ大量に作る必要も無いのだが。

相手に傷を負わせない手加減用の武器だし。


「まあ嘘だと信じたいのはお前の自由だが、」


元々出していた木刀を左手に持ち替え、『創造』を発動。左手に持つ木刀を複製したものを創り出して右手で掴む。


「実際数秒あればこんなオモチャくらいなら」


二刀流でもするかのように片手ずつ握った木刀を構えつつ、『創造』を発動。勇者(笑)の3mほど上、勇者(笑)を中心とした半径2mの範囲内、垂直落下で俺にも勇者(笑)にも当たらない位置に無数の木刀を切っ先──切れないのに切っ先とはいかに──を真下に向けた状態で創り出す。

創造にかかった時間は1秒にも満たない。

そして、木刀には宙に浮くような特性は付与していないのだから、そんな状態で創り出せば当然の結果として、


「ひっ⋯⋯」

「このくらいは軽く作れる」


真っ直ぐに降ってきた木刀が、勇者(笑)を円の中に閉じ込めるかの如く床に突き立った。

一瞬の出来事に、怯えたように勇者(笑)は後ずさるが、ぐるりと取り囲むように配置したのだから、後ろに下がっても後ろの木刀にぶつかるだけである。


「お、俺が丹精込めて育てた聖剣を砕く木刀がオモチャ⋯⋯」

「いやだってさ、」


『アイテムボックス』の容量は無限だから仕舞うことは容易いが、別にこんなに木刀はいらないので、両手に持った木刀以外は『消失』の権能で綺麗さっぱり消し去る。

ついでに左手の木刀を『アイテムボックス』にしまい、信じられないものを見るかのような目で俺を見つめてくる勇者(笑)に近づく。


「並大抵のことじゃ壊れないってのは便利だけど、」


勇者(笑)の目の前に来たところで、剣道のように両手で握った木刀を振り上げ、心の中で「面!」と叫びつつ勢いよく勇者(笑)の脳天に振り下ろす。


「ぎゃあああああああ!!!!!」

「手加減用のだから攻撃しても傷一つ付けられないし⋯⋯って、流石に聞こえないか」


『不殺』の効果で肉体のダメージは一切ないが、本来受けるダメージ分の痛みはしっかりと伝わる。

勇者(笑)は頭を叩き割られるような痛みを味わっているだろうし、そんな状況ではこちらの言葉も届くまい。


「いやしかし不思議なもんだよなぁ『不殺』って。普通に考えて死ぬようなダメージでも身体には傷一つつかないし、死ぬほど⋯⋯っていうか、実際本来なら死んでる痛みなのにショック死も発狂もしないんだから」


まあ『創造』とか『消失』とかの時点でそもそも異常性の塊だし、普通にスキルとかが存在する世界なのだからスキル=物理法則みたいなものなんだろうけど。


「ま、しばらくはその痛みを味わって自分の愚かさでも悔やんでるんだな」

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