45話
微ファンタジーでほのぼのとした日常を描いた恋愛?の新作を書いてたらうっかりこっちを忘れそうになっていた間抜けな作者です。
月一更新は維持するのです!
⋯⋯維持したいのです!
⋯⋯⋯⋯維持できるといいなぁ⋯⋯
「チッ⋯⋯なんだこのくせェ臭い」
悪態をつきながら、開け放たれた扉から入ってきたのは黒髪黒目の男。
男は、この肥溜めのような輩しかいない宿には似つかわしくないような見るからに一級品と分かる装備を身につけ、不機嫌そうに周りを睨めつけている。
「『万象の書架』」
なんとなく嫌な予感がして『万象の書架』で男の情報を見てみれば、まさにビンゴ。
最悪の予想が当たっていた。
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名前:黒羽 大牙
性別:男
年齢:16
称号:異世界人、勇者
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実際に『万象の書架』に表示される情報はもっと多いのだが、この部分だけでも十二分にわかる。
この黒髪黒目の男は、俺や元クラスメイトたちと同じように日本から召喚されてきた地神の国の勇者だ。
しかも、『万象の書架』が表示した情報を信じるなら──世界の記憶にアクセスして情報を引き出す以上、余程のことがなければ情報に偽りはないのだが──、この男が門兵の忠告にあった新しく召喚された勇者で、そしてこの肥溜め同然の宿の実質的な主らしい。
また、門兵の忠告通り、この男は勇者の称号を傘にきて、目をつけた女は誘拐同然に自分のモノにするなど、かなり好き勝手に振舞っているようだ。
「ったく、上物の獣人の雌が来たって連絡を受けてきて見りゃ、なんだこの惨状は」
流石はこの肥溜めの主らしく、この宿の奴らと何らかの遠距離の連絡手段を持っているらしい。
そして、愚者──称号は勇者だが、こんなやつな愚者で十分だろう──の言った上物の獣人の雌、というのは、そんな表現をされると考えただけで殺意が湧くが、間違いなくミィナのことだろう。
つまり、この愚者は俺のミィナを狙った敵ということだ。
「あ?誰だテメェ?見慣れねえ顔だが、俺にガンつけて来るってことがどういうことか分かってんだろうな?」
知らず知らずのうちに愚者への殺気が顔に出ていたのだろうか。
俺と目が合うと、愚者は威嚇でもするかのように眉間に皺を寄せて俺のことを睨みつけ、ズカズカと俺の方へと歩いてくる。
「た、た、た、タイガさん!そ、そいつが獣人の雌の持ち主です!そ、そんで、 そいつがここをこんな滅茶苦茶に!」
「へぇ⋯⋯」
あれほど三つのゴミをサンプルにして恐怖を見せつけてやったのに、口を開く余裕がある奴が残っていたようだ。
それとも、それだけこの粗大ゴミ同然の愚者の力を信じているのだろうか。
どちらにせよ、周りで状況を見ていた男の一人が愚者に状況報告をする。
それを聞いた愚者は、俺の目の前まで来て立ち止まると、不機嫌そうでありながら、どこか愉しそうににやっと笑った。
「どこの死にたがりかは知らねえが、地神の国の勇者であるこの俺様に喧嘩を売るなんざいい度胸じゃねえか。ちょうど最近は敵対するやつもいなくて暴れ足りなかったところだし、少しは楽しませてくれよ?」
「勇者だか愚者だかは知らないが、お山の大将がキィキィ喚いててもハッタリにもならんぞ?それ相応の実力を身につけてから囀ったらどうだ?」
「テメェ!舐めやがって、ぶっ殺す!!」
言動の節々から小物感が滲み出ていたので適当に煽ってみたのだが、予想通りあっという間に頭に血を上らせて殴りかかってきた。
「なるほど、流石はお山の大将。沸点の低さも切れ方も手下と同じ残念さだな」
もう一押しダメ押しに煽ってやりつつ、この肥溜めで最初に殴りかかってきた奴にしたように、圧縮した空気の壁で愚者の拳を受け止める。
「なっ⋯⋯!?」
「へぇ、流石に手下よりは頑丈みたいだな」
腐っても勇者と言うべきだろうか。
愚者が殴ったのは前回とほぼ同じ要領で作った空気の壁だったのだが、愚者は受け止められたことに驚きつつも、特に殴った手にダメージを負った様子はない。
そして、自分の一撃が受け止められたことで一旦冷静になったのか、愚者は馬鹿みたいに追撃はしてこずに、一度距離をとった。
「ナニモンだ、テメェ?」
「俺か?強者気取りのお山の大将に絡まれる可哀想な、 天神の国のBランク冒険者だ」
「巫山戯たこと抜かしてんじゃねえ!スキル抜きとはいえ俺の本気の拳を平然と受け止めれるスキルを使える奴がアイツら以外にいるわけがねえ!」
アイツら、というのが誰を指すのかは分からないが、まあ恐らくは地神の国の他の勇者だろうな。
それにしても、圧縮した空気の壁を本気で殴ってピンピンしてる腕といい、さっきの物言いといい、この愚者は余程自分の力に自信があるようだ。
まあ勇者のおまけだった俺でもこの世界に来てから苦戦らしい苦戦をしていないし、本物の勇者サマ(笑)なこの愚者も自分と同格な相手とろくに戦ったことはないのだろう。
まあそれで俺のように善行を積むならともかく、好き勝手に振る舞うようになるのではどこまでいっても愚者だが。
「黒髪に黒目⋯⋯そうか、テメェも俺と同じ勇者だな。それも魔族とやらと手を組んだ国の」
「ほう⋯⋯」
予想通りと言えば予想通りだが、地神の国でも、天神の国と同じような理由で勇者召喚されたらしい。
この分だと、残る海神の国も同様だろう。
三国が三国とも自分たちの国が正しく、他の二つの国は魔族と手を組んでいるというなかなかに面白いというか、めんどくさい状況になっているようだ。
勇者じゃない俺にはほとんど関係の無い話だが。
ともあれ、召喚された経歴はあるが、俺自身は勇者でもなんでもないので、一応愚者の勘違いを解く努力だけはしてみようか。
「何を勘違いしてるのかは知らないが、俺は勇者でもなんでもないぞ?」
「嘘をつくんじゃねえ!勇者以外がこの俺様と張り合えるわけがない!」
「やれやれ、本当に勇者じゃないんだがな」
召喚されたという経歴があるし、実際に少なくともゴブリンキング程度の強さはあるこいつからすれば、俺が勇者じゃないと言っても信じられないのだろう。
黒髪黒目でもあるし。
「はあ⋯⋯まあ見るからに頭の悪そうなお山の大将にゃ分からんだろうし、俺の連れに手を出されかけた怒りも含めて、一度ぶっ潰させてもらうとしようか」
投稿時にミスして45話を投稿していたつもりが、45話46話と二回連続して投稿処理をしてしまっていたようです。
46話につきましては、完全な作者のミスです。
46話を投稿しようとしていたとかではなく、45話を二連続で投稿処理してしまっていただけです。
次からはもっと落ち着きを持って誤連投しないように気をつけます!




