36話
「さて、とりあえず魔物を殲滅したはいいけど、どうすっかなぁ...」
馬車とその周辺にいた魔物はきっちりと殲滅した。
『創造』の力で出した魔物だけを燃やす炎である以上、馬車はおろか草木一本すら燃えることはない。
だから当面の命の危機はないのだが、それとはまた別の大きな問題に直面している。
「なあ、」
「「「「「ひぃっ」」」」」
「......はぁ」
そう、馬車の中に残っていた違法奴隷の子たち──女の子しかいなかった──に完全に怯えられているのだ。
彼女たちは馬車の奥で固まって震えており、声をかける度にさっきみたいに悲鳴をあげられている。
まあ彼女たちからしてみれば、魔物に襲われたかと思えば、一緒にいた子の一人魔物の群れの中に蹴り出され、自分たちを奴隷に貶めた悪質な奴隷商人が唐突に消え失せ、挙句の果てには馬車の周りが炎の海と化したのだ。
それに加えて奴隷にされたことも含めて、あの悪質な奴隷商人からはろくな目に合ってないのも原因の一つだろう。
前半二つはともかく、後半二つに関しては怯えられるのも無理はない、無理はないのだが、
「流石にここにこのまま放置ってのも、なぁ...?」
悪質な奴隷商人はもうこの世にいないとはいえ、彼女たちはまだ奴隷の首輪は付けられたままだ。
まあ奴隷に関しては普通に解除できる、できるのだが、解除したとしてもここは魔物や盗賊がそこかしこにいるような街の外。
彼女達の中には多少は能力の高い子もいるようだが、ろくな武器も防具もなく、近くの街への距離も短くないこんな場所に放り出したら全員が生き残れるとは思えない。
成り行きとはいえ、一度助けてしまった彼女たちを怯えられているからと言ってその辺に放り出して知らんぷりをするのは流石に気が咎める。
ただ、あまりにも怯えられていて会話がままならないのも事実であり、にっちもさっちもいかなくなっていた。
「後は...この子次第、か」
その場に座り込んだ俺は、馬車の奥で震える彼女たちに聞こえないような小声で呟きつつ、背後に目を向ける。
そこには、あの悪質な奴隷商人に馬車から蹴り出されて、ボロボロの体で蹲っていた少女が眠っていた。
蹴り出されて蹲っていた時点では朦朧とはしていただろうが意識はあったのだが、治療をして障壁を張った時点で安心感からか──回復にはどうやら落ち着くような暖かさがあるらしい──、気絶か睡眠か、少なくとも意識は失ってしまっていたのだ。
そこから今の今まで眠ったままであり、悪質な奴隷商人を消し去ったことや、魔物を火の海に沈めたことはまず間違いなく知らないはずだ。
その無知に漬け込むようであれだが、眠っている少女が会話が成立するようだったら、馬車の奥で怯える少女たちとの連絡役になってもらいたいと思っている。
まあ彼女もあの悪質な奴隷商人からはろくな目に合わされていない──魔物の前に蹴り出されまでしているし──ので、彼女からも怯えられる可能性は大いにあるのだが。
「そうなったらどうすっかねぇ」
馬車の中には怯える少女たち、背後には未だに眠り続ける少女。
彼女たちを助けたことに後悔はあまりないが、面倒なことになったと思いながら、背後の少女の目覚めをただただ待っていた。




