35話
「あー...定番イベントは好きだが、流石に同じのを二連続は...なあ?」
誰にともなく呟いた俺の言葉は、当然のように誰からも反応されることなく消えていく。
だが、俺の呟きは消えていったとしても、目の前で起きている光景、魔物に襲われる馬車は当然の如くその場にあり続けていた。
「あ、護衛が全滅した」
護衛と商人に関しては助ける必要性を感じないので現実逃避気味に眺めていたのだが、そうこうしているうちに護衛は全滅してしまったようだ。
まあ遠目から見た感じでもそこまで練度が高いようには思えなかったのだが、こうもあっさりと全滅すると因果応報と思っていても哀れに思えてくる。
だが、商人は護衛が全滅すると、馬車の中から一人の女の子を馬車の外へと蹴り出した。
「っておいおい!いくら悪質な奴隷商人だからって奴隷、しかも子供を身代わりに放り出すのか!?」
蹴り出された女の子はそのまま地面を転がっていき、魔物の注意は女の子の方へと向けられる。
蹴られたのと、地面を転がった痛みからか女の子はそのまま地面に蹲ってしまっており、このままでは魔物の餌となってしまうだろう。
流石に何の罪もなく、不幸にも攫われて奴隷にされた子を見殺しにしては寝覚めが悪くなるので、『亜空間収納』から取り出した銃で女の子に近付く魔物を撃ち殺しつつ、女の子の所へと走っていく。
「ったく、最低限クズは後で殺すとしても、他の後処理が大変なんだろうが...人数が少ないのが唯一の救いかねぇ」
そんなことを呟きながら走ること暫し、程なくして女の子のもとに辿り着いた。
「こういうのはどちらかというと正義大好き勇者諸君に任せたいことではあるんだがなぁ。下手すると恩を仇で返す...とまではいかなくても、助けた相手から敵意を向けられたりで散々なことになりそうだし」
口ではそうぼやきつつも、きっちりと『創造』の力を発動し、足元で蹲っている女の子の治療とちょっとした処理をし、ついでに障壁で覆っておく。
これで少なくとも今この場に限っては、この女の子だけは魔物やそれ以外に害されることはないだろう。
そして、ここまでの状況の変化で俺の存在に気づいたのか、馬車の中からゴミクズが声をかけてきた。
「お、おい!そこのお前!さっさと周りの魔物どもを片付けて俺と商品を守れ!」
「はぁ?俺はてめえの部下でも護衛でもないんだが、なんでてめえなんぞを助けなきゃなんねえんだ?」
「黙れ黙れ!折角いい商品を仕入れたのに使えない護衛と魔物どものせいで散々だ!金ならくれてやるからお前は大人しく俺の命令に従っていればい......」
唐突に馬車の中から聞こえてきたゴミクズの声が途絶えた。
まあ唐突に、といっても実際には俺が『消失』の力で存在そのものを消し去った結果ではあるが。
「ついついカッとなって殺ってしまいました、って感じか。まあ結局はゴミ処分に近いし後悔も何もないんだけどな」
一瞬だけ馬車に視線を向けてそう呟いて、俺は改めて魔物の方に向き直る。
「さてさて魔物諸君、さっきまでは君たちが狩る側だったみたいだが、今からは君たちが狩られる側だ。この場にいたことを不運だと思いながら、疾く死んでくれ」
そんな言葉と共に、俺は『創造』の力を行使する。
直後、轟音と共に魔物の足元から魔物だけを燃やす炎が燃え上がり、魔物達を焼き尽くしていった。




