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30話

「お初にお目にかかります、シュウヤさん。私、エルナ・アトロスと申します。この度は危ないところを救っていただきありがとうございます」


その後、目的地は同じだし、悪い貴族ではなさそうだったのもあり、伯爵のお誘い(テンプレ展開)に乗ることにした俺は、伯爵の娘から自己紹介とお礼を言われた。

聞くところによると、伯爵には妻がいたが、既に妻には先立たれており、家族はもうこの娘さんしかいないらしい。

それなら尚更こんなちゃちな護衛しかつけていないのが気になるのだが、下手に踏み込まないと決めたばかりなので、それには触れずにおいた。

そして、馬車で移動するという段になり、俺も護衛を手伝おうかと申し出たのだが、命の恩人に護衛をさせるわけにはいかないということで、現在、俺は馬車の中にいる。

ちなみに、異世界の馬車はかなり揺れて乗り心地が悪いというのが定説なので、俺はこっそりと空気で出来たクッションを作り、その上に座っている。

まあかなり薄く作っているので、傍から見ても違和感はないだろうが。

馬車の中では、冒険者としての活動の話を二人に話して聞かせ、またアトフィルの街などの話を聞きながら、馬車の旅は進んでいく。


(にしても、なんというかこう、変な淀みみたいな感覚はなんなんだろうな)


馬車に乗って移動を始めてから数時間は経っただろうか、そろそろ日が傾きはじめ、辺りは薄暗くなり始めている。

そんな中、俺はエルナさんからなんとも言えない違和感を感じていた。

エルナさんが腹の中に一物抱えているとか、実はエルナさんが偽者だとかそういう感じのではない。

言うなればそう、幽霊に取り憑かれているとか、誰かに呪われているとかそんな感じの雰囲気。

見た目は特に違和感はないのに、どこか薄ら寒いというか粘つくというか、異様な暗さを持った雰囲気を感じるのだ。

そして、俺が何かを感じ取っていると気づいたのだろうか、伯爵が心配そうに声をかけてきた。


「シュウヤ殿、私共...いえ、エルナに何かありましたでしょうか?」

「私、なにか失礼なことをしてしまいましたか?」

「え?あ、いえ、そういうことではないんですが...」


自分たちが不味いことをして俺が不快になってるのではないかと心配している伯爵とエルナさんに対し、俺は正直にこの違和感について聞くべきかどうか迷っていた。

一度違和感を感じ取り、そして気にしてしまった以上、この違和感が解消されるまではどうしても気にしてしまうだろう。

だからと言って、初対面、それも貴族の娘さんに対して、「貴方から異様な気配を感じるのでそれが気になってます」というのもそれはそれで不味い気がする。

しかし、曖昧な返答をした俺にますます不安そうな顔をしている二人に対し、このまま自分で抱え込んで不安にさせるよりは、と思い切って聞いてみることにした。


「あー...これから聞くことは自分の感覚的なことなんで間違ってたら申し訳ないんですけど、」


そう前置きして話を切り出すと、二人はなんだろうという顔をしながら、俺が言葉を続けるのを待っている。


「エレナさんからこう、淀みのような変な気配を感じて、何かに取り憑かれたり呪われたりして────」

「なっ!?なぜそのことを!?」

「────るんですか、まじですか」


俺の言葉に割り込んで驚いた顔で前のめりになって身を乗り出してきた伯爵に、まさか本当に当たってるとは、と内心でため息をつく。

エルナさんも、自分の呪いについては知っていたのだろうが、初対面の俺に言い当てられて驚いたような顔をしている。


「確かにエルナは現在厄介な呪いを受けていて、その呪いを解除する手立てを探しているが、なぜそのことを...?」

「あー...、さっきも言った通りなんですが、感覚的にエルナさんから暗い淀みのような雰囲気を感じて、呪いとかかなーって思っただけなんですけど...」

「く、暗い淀みのような雰囲気...?私や家臣はそのようなものを感じ取ったことはないのですが...」


困惑するように言う伯爵に、これも『創造』や『消失』の権能を手に入れた影響かと頭の片隅で思いながら、さてどうしたものかと考える。

そして、今のやり取りで恐らくではあるが、こうして危険に陥ってまで護衛費等を削っているかの推測がついた。


「解呪...は出来なかったんですよね?」

「あ、ああ。あちこちで呪いを解く手立てを探してみたのはいいものの、高名な呪術師でもどうにもならず、ただ金が消えていくばかりだ」


相当苦労しているのだろう。

伯爵は一気に老け込んだかのような雰囲気を漂わせ、エルナさんも申し訳なさからだろう、重い雰囲気を漂わせている。


(そういえば、病気や呪いとかそういうのが判別できるような能力は創ってなかったな)


俺自身この世界に来てから病気やそう言った呪い等を受けたことはないし、フィリップたちも少なくとも一緒にいた間では平穏無事だったので、そういう状態異常を確認するようなものを創ったことはなかった。

というか、相手の能力を確認するようなものすら創っていない。

正確にはイメージの問題──知らないものを判断して表示するのに足るイメージが湧かなかった──ので創れないと言ったところが正しいのだが。


(そもそも自分が知らないものを説明するってのがイメージできるとは思えないんだよな...星の〇棚とかみたいな力があれば別なのかもしれないけど...ん?)


これまでは完全に自分の認識による完全なイメージだけで『鑑定』のようなものを創ろうとしていたから上手くいかなかったが、『鑑定』を補助する能力とセットにすればどうになるかもしれない。


「あ、あの...シュウヤ殿?どうかされましたか?」


頭の中であれこれと考えを整理していると、伯爵がなにか声をかけてきた気がしたが、完全に無視して考えを纏めていく。


(確か地球では元始からのあらゆる事象が記録された世界の記憶が存在するっていう概念があったはずだ。地球ではそれは完全なるオカルトの分野で存在が証明された概念ではないが、『創造』ならイメージさえ及べばある程度はゴリ押しできる。なら、世界の記憶を参照する力を持った能力を作って、そこから読み取って相手の情報を表示させるようにすれば...)


考えがまとまった段階で、頭の中でそれをイメージに起こしていく。

イメージするのは本棚のような概念。

世界中のあらゆる事象を記録した様々な本があり、その中から望む本、望む情報を引き出していく、そんなイメージ。

イメージがまとまったら、そのイメージをしっかりと保ったまま、『創造』の力を自らに対して発動する。

発動した『創造』は、俺が描いたイメージを読み取り、新たな力を構築していく。

しかし、俺が描いたイメージが失敗していればここで構築がキャンセルされ、『創造』は終了する。

果たして今回は...


「できた!」

「で、できた?」

「な、なにがでしょうか?」


うまく『創造』による新たな能力の生成が成功し、思わず声を出してしまった。

伯爵とエルナさんは突然声を出した俺に驚いたような困惑したような顔をしているが、俺はそれも無視して今新たに出来上がった能力『万象の書架(アカシック・レコード)』を発動する。

だが、『万象の書架』はそれ単体ではただのデータベース。

これ単体でも使えないことはないのだが、無数の情報から望む情報だけを引き出すというのは非常にめんどくさい。

今度検索エンジンのような能力も創らないとなと思いながら、とりあえずこの『万象の書架』から対象の情報を読み取り、表示するための能力の創造へと移る。

今回は『万象の書架』というデータベースが存在するため、構築は問題なく成功し、もう一つ新たな能力『鑑定』を得た。

そして、さっそく創ったばかりの『鑑定』をエルナさんに対して発動する。


──────────────────

名前:エルナ・アトロス

性別:女

年齢:15

状態:契約の代償

──────────────────


発動前に表示情報を絞っておいたことで、アウトな個人情報(体重やスリーサイズ)や経歴が表示されることはなく、ある程度必要な情報だけ──まあ名前や年齢も不要っちゃ不要ではあるが──が表示された。

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