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29話

「「「すみませんでした!!」」」


前を走る護衛三人組を追い越さないよう駆け足程度の感覚で走ること暫し、馬車の扉の前に来るやいなや、三人は瞬く間に横一列に並び、見事なまでの土下座をした。


(この世界にも土下座ってあるんだなぁ)


言葉といい土下座といい、そういえば微妙に現代日本に通じるものがあるなと今更ながらに思いながら、土下座をしたままの護衛三人組を見ていると、馬車の扉が開き、一人の男が姿を見せる。

男は華美な装飾こそ無かったが、身に纏う雰囲気からして恐らくは貴族だろう。


(うわぁ...土下座の時点でなんとやく予想はしてたが貴族の方だったか...)


予想外といえば予想外、予想通りといえば予想通りの貴族の登場に、俺は顔には出さないように心がけつつ、心の中では盛大に顔を顰める。

馬車は一台なので商隊はナシ、護衛が少ないので貴族の線は薄く、消去法で駆け出しの商人あたりだろうと踏んでいた。

だが、馬車の前での一斉の土下座にこれは嫌な予感がすると思ったら案の定の貴族の登場だ。

いや別に貴族だから嫌いというわけではないのだが、ネット小説に出てくる貴族は大抵傲慢なクズばかりだったので、どうしてもそういうふうに捉えて身構えてしまう。


「そう縮こまるな、出来るだけ費用を抑えようと護衛の人数とランクを抑えたのは私の方だ。それが原因で危機に陥ったからといってお主らを咎めるつもりは無いよ」

(お?これは善良な貴族パターンか?)


馬車から完全に降りてきて土下座をする護衛三人組の前に立って労わるように声をかけたのを見て、俺は内心でこの貴族への評価を上方修正する。

権力を振りかざし義務を蔑ろにし、自己中心で他者を貶めるような貴族だったら最悪だったのだが、どうやらこの貴族は少なくとも表面上はまともなようだ。

そんな不躾なことを考えつつ貴族の様子を観察していると、不意に貴族が俺の方へと目を向けてくる。

内心で碌でもないことを考えていたこともあり、ついつい反射的に身構えてしまったが、それを見ても貴族は咎めることはなく、むしろ俺に対して軽くだが頭を下げてきた。


「シュウヤ...殿だったかな?私はカイエル・アトロス、しがない伯爵だ。此度は私たちを窮地から救い出してくれたこと心から感謝するよ。君のおかげで私と娘は命を落とさずに済んだ」

「あー...気にしないでください、ちょっとした旅の途中の気まぐれ程度ですので」


流石にこの局面でも普段通りに喋るほど愚かでない俺は、記憶の中を割りと真面目に手繰り、どうにか慣れない敬語で一応は丁寧に応対したつもりだ。

それは少なくとも失敗ではなかったようで、顔をあげた貴族──アトロス伯爵──には少なくとも不快の色は見えなかった。


「ついでであろうと気まぐれであろうと助けてくれたのは事実。それも多数の盗賊を相手に実力者とはいえ年若い身で単身加勢に来てくれたのだ。これで感謝の心を忘れたらそれはもはや貴族どころか人ですらない」


やはり、この伯爵は少なくともネット小説によくいるゴミクズのような貴族ではなく、かなりの人格者のようだ。

これで助けたのがゴミクズ貴族だったら助けて失敗したくらいには後悔する自身もあったのだが、こういう人なら助けて良かったと思う。

ともあれ、助けたのが伯爵とその娘だったというのは分かったのだが、それならば何故こんなにも護衛が少ないのかが多少は気になる。

伯爵だったらそれなりに金はあるように思えるし、散財するような人には見えない。

特に、命の保証とも言える移動の際の護衛にかけるお金を抑えるというのが特に気になった。

なにかにお金が必要なのだとしても、そのために自分の命を失っては本末転倒だと思うのだが。

ともあれ、こういう時にあまり個人的な事情にまで踏み込むのはどうかと思うし、聞いたからと言ってどうにか出来るとも限らない。

『創造』の力は万能に近い力を持つ権能だが、真に万能ではない。

出来ることと出来ないことがあるのだ。

それもあって、伯爵のお礼に言葉を返せずに黙り込んでいると、伯爵が再度口を開いた。


「ところで、シュウヤ殿は旅の途中とのことだが、今はどこか目的地はあるのかな?」

「ええ、今はアトフィルの街へと向かってるところです」


先ほど護衛三人組には目的地を伝えたのだが、ここに来るなり土下座を始めたために情報が伝わってないのだろう。

動くに動けず、いまだに土下座の体勢のまま固まっている護衛三人組を横目に見ながら俺は現在の目的地を答える。

すると、伯爵は一瞬驚いたような顔をし、わずかに目を輝かせたように見えた。

そして、わずかに興奮したような様子で、俺に驚くべきこと(テンプレ展開)を言ってきた。


「おお!シュウヤ殿の目的地はアトフィルであったか。時にシュウヤ殿、アトフィルは私の領地、もしシュウヤ殿さえよければ我が領地にてお礼をしたいのだが...どうだろうか」

貴族らしさを出した喋り方を表現するのって難しいですよね?ね?ね!?(必死)

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