27話
互いに相手の出方をうかがい、武器を構えたまま睨み合うこと暫し、ようやく頭が動いた。
「まずはその細っこい刀を叩き折る。オラァ!」
見た目が頑丈そうに見えないから、まず真っ先に武器を破壊して無力化でもしようと思ったのだろう。
頭は一直線に俺の方へと走ってくると、刀を狙って剣を振り下ろしてきた。
確かに、刀は一般的な両刃の剣に比べてて細く薄く、見た目的には脆そうに見える。
それに俺は武術、特に剣道の心得はないから、刀の扱いとしては三流もいいとこではある。
だが、これは『創造』で創った刀であり、強度や性能が見た目通りであるわけがない。
「叩き折る、ねぇ。そう簡単に折れるなら実戦では使い物にならないだろうし、折れるものなら折ってみてほしいものだな」
振り下ろされる頭の長剣に対し、俺は刃を上に向けながら一気に刀を振り上げて迎え撃つ。
まずは能力を発動しない状態での、純粋な刀の切れ味と強度を試すための一合だ。
いや、一合だった。
「なっ!?」
「あー...流石にそれは想定外だったな」
剣を振り下ろした体勢のまま、半ばから綺麗に切り落とされた自らの剣を見て、驚きの声を出す盗賊の頭。
俺としても、頭の剣が折れるか弾かれるかなら想定していたのだが、静かに、そしてほとんど手応えなく、少なくとも鉄か鋼鉄製であろう剣を切り裂くとは思いもよらなかった。
「とりあえず刃毀れとか歪みがある気配はなし、と。とはいえ流石にこの切れ味は逆に危ないよなぁ」
先ほどの一合、剣と刀がぶつかった直後、微かな金属音を響かせたが、ほとんど手応えなく剣と刀は互いに交差した。
そして、持ち手と繋がっている剣の根本側は頭が手を止めるのに合わせて動きを止めたが、剣先側は振り下ろされた勢いそのままに地面へと突き刺さった。
頭は最初から刀の破壊が狙いだったため、俺の体は頭の振り下ろしの軌道上にはなかったから良かったが、もし俺を狙っていたら、切り裂いた剣先にそのまま貫かれていただろう。
まあ実際に剣先が飛んできたら場合、俺に当たる前に『消失』の自動防御で剣先が消えるだろうから問題はないんだが。
「アニメとかラノベとかでよくある銃弾を剣で切るってあれ、結局は銃弾の慣性でそのまま撃たれるんじゃね?って思ったが、まさか剣を相手にそれをやるとはなぁ」
とりあえず、俺のような三流の使い手でも問題ない切れ味──むしろ良すぎて問題がありそうだ──と強度があるのは分かった。
分かったが、この結果から見るに、並の相手なら素の性能だけでも過剰すぎるように思える。
ファンタジー金属のミスリルやオリハルコン、アダマンタイトなどが相手ならどうなるかは分からないが、少なくとも鋼鉄くらいまでなら、たとえ盾で防御されても、盾ごと切り裂けそうだ。
「とりあえず近いうちに色んな素材を試し斬りしてどこまで素の性能で押し切れそうか試してみるしかないか」
付加している能力の実験は、素の性能での限界をある程度確認してからじゃないとしっかりと確認出来ないというのは分かったし、今日のところはこれで十分だろう。
「そういえば使うのが俺だけだから困らないけど、そのうちこの刀とか銃にも名前つけないとだな。いつまでも刀とか銃とかで呼ぶのもあれだし」
そんなことを呟きながら、俺は刀を『亜空間収納』に放り込み、盗賊の頭に目を向ける。
先ほどの光景がよほど信じられなかったのだろう、現実逃避でもしているのか、盗賊の頭はまるで壊れた機械のように剣先と残った剣とを交互に見ていた。
「とりあえずこいつも氷漬けにしてギルドに突き出す方向でいくか。なんかこんな状態でバッサリといくのもあれだし」
未だ現実に目を向ける気配の無い頭に右手を向け、『創造』の力を発動。
戦闘開始直後の三人の盗賊と同じように氷の中に閉じ込めておく。
それから、ずっと展開したままだった炎の壁を解除し、一応地面を確認する。
「うん、まあ心配する必要もなかったけど、特に延焼の恐れはなし、と。えーっと、他の護衛の連中はっと...お、もう終わってるみたいだな」
燃やしたいものだけを燃やし、それ以外には一切の影響を与えない、そんな『創造』の炎の便利性を確認しつつ、他の、というか元の護衛連中の様子を確認しようと馬車の方へと目を向ける。
炎の壁で完全に視界を遮断していたために過程はわからないが、無事に盗賊との戦いは終わったようで、護衛連中は馬車のそばに座り込んでいた。
馬車の周りをしっかりと見てみれば、縄で縛られた盗賊や、既に物言わぬ死体となった盗賊の姿もある。
そして、護衛の連中も俺に気づいたようで、何事かを話した後、立ち上がってこちらへと歩いてくる。
「んー、怪我はあるようだが護衛連中に死人はいないし、一件落着ってとこかね」
後はもうこのまま何事もなく護衛連中、後は場合によっては依頼者と後処理と話し合いをして、盗賊戦は終わりだろう。
俺は、『創造』の力を使って、盗賊の頭を閉じ込めた氷牢の下から馬車へ向けて氷の道を伸ばし、その上を滑らせて盗賊の頭を運びつつ、俺も護衛連中のところへと歩いていった。




