26話
「あ?待てってか?待つわけ────」
俺が左手を向けたのを待てという合図だと思ったのか、盗賊の一人が変なことを言っていたが、流石に戦闘中に敵にそんな合図を出すほど馬鹿ではない。
盗賊の言葉の途中で『創造』を発動し、一人を氷の中に閉じ込めた。
「なっ────」
「待っ────」
それを見て、驚いた残りの二人も再度発動した『創造』により、氷の中に閉じ込める。
この氷は自然に溶けることは無く、生半可な火魔法では溶かすこともできない、そういう風に創った氷だ。
結果、盗賊三人は恐らく死にはしていないだろうが、少なくとも無力化は完璧に完了した。
盗賊は生かして冒険者ギルドとかに連れていけば犯罪奴隷として買い取ってもらえるそうなので、折角だからこいつらは売り払うのがいいだろう。
「さて、他の連中は...ちょっと苦戦気味か」
元からの護衛連中のランクや実力の程は分からないが、盗賊に対して圧倒的に実力が上回っているということはないようで──まあもしそうならそもそも救援がいらないだろうが──、数の多い盗賊相手にやや押されている。
特に、盗賊の頭を相手している先程言葉を交わした男は、いまだ致命傷こそ負っていないが、かなり傷が多くこのままでは危険そうだ。
「ふむ...とりあえず頭を引き取って、あとは軽く腕とかを使えなくすればいいか」
そんなことを呟きながら、右手に持ったままの銃を構えて数回引き金を引く。
生成した魔弾は全て風、そして発射された魔弾は混戦状態なのも気にせず、正確に狙いをつけた盗賊の肩の付け根を撃ち抜いた。
「一、二、三、四…うん、この程度の相手なら問題なく弾道誘導が効くな。それにこのくらい減らしておけば他は問題ないだろう」
魔弾が狙った盗賊全員を正確に撃ち抜き、撃ち抜かれた盗賊が腕が使えなくなって武器を落としたことを確認して、俺は銃を『亜空間収納』に放り込んだ。
そして、続けて『亜空間収納』から先日創ったばかりの新しい武器を取り出す。
「うまく盗賊の頭を引っ張ってくるなら...やっぱ爆発か」
武器を持っていない左手を盗賊の頭へと向け、『創造』の力で対人戦のお馴染みとなりそうな吹き飛ばし特化の爆発を発生させる。
「うおっ!?」
吹き飛ばしに特化して威力が抑えられた爆発は、狙い通りに盗賊の頭を俺の方へと吹き飛ばす。
近くにいた盗賊も爆発の余波でバランスを崩したりしているが、頭のように勢いよく吹き飛ばすほどではなく、頭だけがしっかりと吹き飛ばされている。
「というわけで、この頭は俺がもらってくぞ!」
「ああ、助かる!」
一応大声を出して頭と戦っていた護衛の男に宣言しておくと、護衛の男も頭には手こずっていたのか、ありがたがられた。
そして、吹き飛ばされてきた盗賊の頭は、やはりそれなりの実力はあるようで──吹き飛ばされる間は追撃せずに放置したというのもあるが──、空中でうまく態勢を立て直して俺からそう遠くない距離に着地した。
「さて、頭さんよ。折角だから新しい武器の実地試験に付き合ってもらうぜ?」
「くっそ...こんな化け物みたいなのが出てくるとかどんな厄日だ...」
「化け物、ねぇ。まあルフトの街の一部の冒険者連中からは氷炎の悪魔なんて大袈裟な二つ名で呼ばれてるみたいだし、やっぱそう見えるのかねぇ」
俺みたいな善良な一般市民に対して酷い話だと嘯きながら、俺は『創造』を使って俺と頭を取り囲むように炎の壁を創り出す。
これで、相手が炎に対して異常なまでの耐性があったりするとかでもなければ、逃げ出すことの出来ない舞台が整った。
それに、こうしておけば炎が視界を遮って、頭以外に俺の戦い方を見られることは無い。
「な、なんて化け物だ...」
「ま、名は体を表すって言うし、期待に応えて見たって感じか?」
突然現れた炎の壁に呆然とした様子で呟く頭に、俺は茶化すようにそう言葉をかける。
そんな俺の平然とした様子に、諦めの境地にでも至ったのか、頭は覚悟の決まったような瞳で獲物──やや長めの長剣──を構えた。
それを見て、俺も先ほど『亜空間収納』から取り出した新武器、刀──この武器もまた無銘だ──を構える。
「ん?見慣れない武器だな、長剣にしては細身だが、レイピアほどではない。それに片刃で変に反ってやがる」
「あー、王都の鍛冶屋でもルフトの武器屋でも見なかったから予想はしてたけどやっぱこの世界に刀はないのか」
元の世界でも、基本的に剣というのは重さで叩き切るのが主流で、刀のような斬れ味で切り裂くような武器は少ない。
それに、刀というのは独特な製法をしていると聞くし、この世界には刀のような武器は存在しないのだろう。
異世界ファンタジーの定番の日本の文化によく似た極東の国が存在すればそこには刀があるのかもしれないが、少なくとも一般的な武器ではないようだ。
まあこの武器も刀は刀だが、鍛冶ではなく『創造』により創り出したものだし、元の世界の刀にはまずない特殊な力を付加している。
刀を使うのは初めてだが、刀自体の使い勝手や能力の確認のための実地試験だ。
(フィリップ程とはいかないまでも、ルフトの街で絡んできた大剣使い程度には楽しめる相手だといいんだが)
内心でそんなことを考えながら、刀を構えたまま頭の出方を待った。




