25話
「あ、あんたは...?」
俺の言葉に、わずかに警戒心を滲ませながら護衛の中の一人がそんなことを聞いてくる。
まあ確かにいきなり現れて「あなた達を助けましょう」なんて言われても即座に信じることはできないだろう。
というか、それをあっさり信じるのはただのバカか余程の慧眼の持ち主だと思う。
というわけで、俺はとりあえずの自己紹介をしておくことにした。
「俺は通りすがりのEラン...いや、Bランク冒険者のシュウヤだ。義はないが、進む先にお前らがいたから気まぐれで助っ人にきた」
Bランクになってすぐのため、うっかり前のランクのEと言いそうになったが、今の俺のランクはBだ。
ただまあBランクにどの程度の影響力があるかは分からないのだが、恐らくこの護衛は緊急クエストの時にルフトの街にいた冒険者なのだろう。
俺が名乗りを聞いた直後、護衛全員がピクリと肩を震わせ、気圧されたように一歩後ろに下がった。
俺と最初に話していた男の護衛は助けを求めるかのように他の護衛に目を向けるが、他の護衛は諦めろと言わんばかりに首を横に振っている。
理由は分からないが、俺は護衛にとって盗賊以上に恐ろしい存在らしい。
ただ、盗賊は俺のことを知らないようで、盗賊の中の一人が悠長に話す俺たちにしびれを切らしたように声を張り上げた。
「お、お前!Bランク冒険者だかなんだか知らないが、俺たち『草原の貪狼』の邪魔をすんじゃ────」
「うるさい黙れ」
「ひぃっ!?」
話に割り込んできた盗賊に顔と銃だけ向けて引き金を引くと、雷の魔弾が飛び出し、盗賊の頬をかすめるように飛んでいった。
魔弾の余波も当たらないように狙ったため、痛みはなかっただろうが、顔の真横を雷が通過していく恐怖に、盗賊は腰を抜かしたようにへたり込む。
他の盗賊も今の光景に余計な口を挟めなくなり、同じく黙り込んでしまった護衛と合わせ、奇妙な静寂が辺りを覆う。
俺は、話の邪魔が入らなくなったことを確認すると、銃を盗賊たちに向けたまま、先程まで話していた護衛の男の方に顔を向ける。
「さて、話の邪魔をする者がいなくなったところで改めて聞くが、救援は必要か?見たところ少なくない怪我をしてるようだし、実け...こほん。サービスを兼ねて無料で盗賊の退治とお前らの治療を無償でやってやろう」
思わず実験と言ってしまいそうになり、慌てて咳払いをして誤魔化して、護衛の男にそう尋ねた。
まあ実験と言っても『創造』で作ったポーションを試すだけなので危険はほぼないのだが。
「...ちなみに、断ったらどうなる?」
「特に何も。断られたら俺はこの場を放置して目的地に向かうだけだし」
「.........」
実際、手出し無用と言われたら──既に割と手出ししているが──そのまま立ち去るだけのことで、逆に盗賊に手を貸す気は微塵もない。
実験にしても急ぐわけではないし、善意の押し売りがしたいわけでもない。
ぶっちゃければ、ただテンプレのその場に居合わせたから気まぐれに助けようかという気分になっただけだ。
俺の提案に考え込んでいた護衛の男だったが、一度二度他の護衛と視線を交わし、やがて腹を括ったようで、しっかりとした眼差しで俺のことを見てくる。
「情けないことだが、この場は助けてくれ」
「あいよ、了解した」
結局、俺の申し出を受け入れることにしたようで、素直に助けてくれと伝えてきたので、俺は了解を返す。
そして、そのまま盗賊たちの方へと向き直る。
「というわけで、だ。現時点をもってお前らは俺の明確な敵になった。さあ、どっからでもかかってこい。地獄への片道切符だ」
俺がそう盗賊たちに宣告するのに合わせ、護衛連中も武器を構えた気配が伝わってきた。
先ほどの俺の威嚇射撃を見たからだろう、どこか気圧され、怯えたような雰囲気を見せる盗賊たちだったが、
「く、クソが!こうなったらヤケクソだ!おいてめえら!俺たち『草原の貪狼』の恐ろしさを思い知らせるぞ!」
『オォオオオオオオ!!』
恐らくこの盗賊の頭なのだろう、やや後方にいた他よりやや豪華な装備の男が声を張り上げ発破をかける。
それにより、覚悟を決めた盗賊たちは一人残らず雄叫びをあげ、武器を構えて一斉に護衛に、そして俺に襲いかかってきた。
「へえ、なかなかの気迫だな。多少の実力差なら押し返せそうな勢いがある。だが────」
護衛たちが盗賊たちに応戦している中、俺はそんな事を呟きながら、真っ先に襲いかかってきた三人の盗賊の攻撃をかわしていく。
そして、
「これは地獄への片道切符。お前らに未来はない」
俺はニヤリと笑い、左手を盗賊に向けた。




