19話
「よお、本隊の方々。せっかくだからキングとの戦い、俺も混ぜてくれよ」
「うおっ!?ひょ、氷炎の悪魔か、むしろこちらから加勢を頼みたいところだな。流石に俺たちだけでロード二体とキングを相手にするのはきつい」
俺が本隊の連中に声をかけると、本隊の連中は俺に気づいてなかったのか驚きの声をあげる。
ただ、驚きはしたものの、動きを止めたものがほとんどいなかったのは流石は経験を積んだ冒険者ということだろうか。
とはいえ、ほとんどの連中はキングたちの相手だけでいっぱいいっぱいのようで、俺の声かけに言葉を返したのは本隊のリーダーっぽい男だけだった。
確かに、CとDの混成の本隊のメンバーではゴブリンロード二体だけ、またはゴブリンキングだけならどうにかなるのかもしれないが、両方合わせると些か手に余るようで、結構ギリギリの戦いをしている。
だが、それよりも一つが気になるこがあった。
「ところで、その氷炎の悪魔ってのはなんだ?」
「ギルド前での決闘、ギルド内での威圧、その他諸々を含めて付けられたお前の二つ名だ。喜べ、まだ非公認ではあるが、Eで二つ名がつく冒険者なんてそう多くないぞ」
「非公認って、ギルド公認の二つ名でもあんのかよ。まあいいや、とりあえずゴブリンロードを一体貰ってくぞ」
「助かる」
ゴブリンロードを一体貰っていけばD連中でロード、C連中でキングをやればひとまず戦況は安定するだろう。
流石に俺がロードを潰すより先にC連中がキングをやれるとも思わないし、キングはロードを潰してからじっくり頂けばいいだけだ。
後続のロード六体とその他諸々に関しても、俺がキングと、後ロードを二体くらいをもらって後は押し付けとけば倒せるかはともかく持ちこたえさせることくらいはできるだろう。
(にしても二つ名、か。有名な冒険者を分かりやすく表す称号みたいなもんかね?ま、これが終わったらあのおっさんに聞くだけ聞いてみるか)
ゴブリンロードの一体を攻撃し、ターゲットを自分に向けさせながらそんなことを決める。
話に参加はする余裕はなかったとはいえ、聞こえてくる会話の把握と理解はできていたのだろう。
俺がゴブリンロードの一体に攻撃を加えた直後、示し合わせたように他の冒険者は俺が攻撃したゴブリンロードから離れた。
結果として、ゴブリンロードは俺のことをターゲットとしたようで、俺に対して手にした巨大な棍棒を叩きつけてくる。
「ランクだけでいえばワイバーンと同格。そして今回はフィリップたちのいないほぼ一対一かつ制限あり。楽しませてくれよ?ロードの名に恥じない程度には、な」
「ガァアアアアア!!」
大きく後方に跳ぶことで振り下ろされる棍棒から距離を取りながらゴブリンロードに話しかける。
言葉は通じることはないのだが、少なからず挑発されていることは伝わったのだろう。
ゴブリンロードは雄叫びをあげながらその手の棍棒で俺のことを叩き潰そうとしてくる。
「速度はワイバーンとは比べものにならないくらいに鈍重、さて、力の方はどうかな?」
そんなことを呟きながら、俺はワイバーン戦、それから先日の斧使いの雑魚との戦いでも使った氷の盾を『創造』により生成し、氷の盾でゴブリンロードの棍棒を防ぐ。
流石はCランクの魔物というべきか、斧使いでは破片すら散らせなかった氷の盾の表面を浅く砕き破片を散らす。
だが、ワイバーンの突進を受け止めた時のように、盾の全体に入るような亀裂を入れる事までは出来なかったようだ。
「同じCランクとはいえ、ドラゴンの近縁のようなワイバーンとはそもそもの地力が違いすぎるってことか」
目の前に浮かぶ氷の盾に対し、ゴブリンロードは苛立ったように雄叫びをあげながら無茶苦茶に棍棒を叩きつける。
その度に氷の盾が少しずく砕け、破片が散っていくが、まだまだ氷の盾が突破されるのには時間がかかりそうだ。
「これじゃあ防御面の方もワイバーンには遠く及ばなさそうだな、鱗とかないし。んじゃ、後が控えてることだしそろそろ死んでもらおうか」
そんな言葉と共に『創造』の力を発動し、ゴブリンロードの周囲を取り囲むように数多くの鋭い氷柱を生み出す。
だが、ゴブリンロードは目の前の氷の盾にかかりきりで、周りを取り囲む氷柱に対しては気づいた気配すらない。
「そんじゃ、ぱぱっと死んでくれ」
そんな言葉とともに合図を出すように右手をあげ、そして振り下ろす。
直後、ゴブリンロードを取り囲む氷柱が一斉に飛び出し、ゴブリンロードに四方八方から襲いかかった。
氷の盾に集中していたゴブリンロードは回避も防御もすることなく氷柱をその身に受け、全身を穿ち、貫き、切り裂かれ、体中から血を吹き出してその場に倒れふす。
「さて、後はゴブリンロードの魔石から波長を読み取ってサーチに反映させてからゴブリンキングに相手してもらいますかね」
周りを見ると、俺の考え通りCランクはゴブリンキングと、Dランクはゴブリンロードと戦っており、どちらもまだまだ倒すには至らなさそうだ。
俺はそのまま倒れふすゴブリンロードを『亜空間収納』に放り込み、魔石の波長を解析する。
これで残っている八つの正体不明の魔物の反応は、Cランクが戦っているゴブリンキングの一つを残し、後の七つはゴブリンロードへと変わる、そう思っていた。
だが、
「正体不明の反応が...三つ?そこのゴブリンキングの一つと、近づいてきている三体の正体不明の魔物のグループ二つの中に一つずつ正体不明の反応が残っている。...まさか!?」
「「ガァアアアアアアアア!!」」
正体不明の反応は三つ残った。
それが意味することに俺が気づいたと同時、未だに正体不明のままの反応二つを含むゴブリンロードたちの集団が到着し、雄叫びをあげる。
「やっぱり、そういうことか...」
新たにやってきた六体の魔物。
それは、ゴブリンロード四体とゴブリンキング二体。
そう、つまり、この森にはゴブリンキングが、三体いたのだ。