15話
翌日、俺は再びルフトの街の冒険者ギルドに来ていた。
昨日はあの後、ギルドでオススメの宿屋を聞き、面倒事が増える前にさっさと宿屋に行って部屋を取り、いつもより早い時間に睡眠を取った。
そして、今日からしばらくはこの街で手頃な依頼を受けようと思い、こうして冒険者ギルドに来ている。
来ているのだが、ギルドに来てから30分くらいでもう既にさっさとこの街から出て次の街を目指そうかという気になっていた。
それというのも、昨日のテンプレ冒険者たちとのお遊びのせいで、俺が氷魔法 と炎魔法──厳密にはどちらも魔法ではないのだが──を極めて高いレベルで使えるというのが知れ渡っている。
ただ、それで俺のランクが相応に高ければ面倒はなかったのだが、現在の俺のランクはEだ。
加えて、王都ではフィリップたちと組んでいたが、今の俺はどこのパーティにも所属していない。
結果として、C~Eランクの冒険者がこぞってパーティの勧誘に来るという極めてめんどくさい状況になっていた。
昨日のお遊びでやったことが尾を引いているのか、一度断れば大抵の冒険者は大人しく引くのだが、それでも多くの冒険者が打診だけでもと言った感じで勧誘してくるし、ときおりやたらとしつこく横柄な冒険者もいる。
まあ多少しつこい輩はともかく、横柄な態度で上からさも俺がパーティに加わるのは当然だという態度のど阿呆に関しては、足元からギルドの出口まで一直線に氷の道を作ってその上を滑らせてお引き取り願ったが。
今は冒険者強制お引取りと、その直後に流石に面倒になって苛立ち紛れに俺を中心に半径1m程を一瞬で凍りつかせ、「俺は誰ともパーティを組む気はない」と宣言したことで落ち着いてはいるが、それでも既にうんざりしていた。
あ、ちなみに、凍りつかせた部分に関してはすぐにお遊びでも使った氷だけを蒸発させる炎できちんと溶かしておいた。
加えて、掲示されている依頼も王都の頃と比べてゴブリン討伐の依頼がやたらと目に付く以外は特に面白い依頼もない。
結局、特に依頼を受ける気にもなれず、この街から近い街への道筋を受付嬢に教えてもらい、この街はさっさと出ることにした。
(なんだかんだでテンプレの一つを味わえたって点では当たりだが、それ以外の殆どの面で大ハズレな街だったな)
そんなことを内心で呟きながら、受付嬢から欲しい情報を教えてもらった俺は、さっさとギルドを出ようとギルドの出口へと足を向ける。
だがその直後、後方、ギルドの受付の方からバーン!と勢いよく扉を開く音が響いた。
王都のギルドでもそうだったが、このルフトの街の冒険者ギルドにも受付カウンターの奥にギルドの奥──おそらくはギルドマスターの部屋や資料室があるのだろう──へと繋がる扉がある。
ただ、その扉は通常は静かに開け閉めされており、今みたいに大きな音を立てて開かれるようなことは一度としてなかった。
(普段とは違う状況、ギルドとしても緊急の事態でも起こったのか?)
平時とは明らかに異なる状況に多少なりとも興味が出てきた俺は、足を止めて受付の方へと振り返る。
そして、それと同時に、俺の耳にはどこか緊張感を孕んだ男の大声が聞こえてきた。
「冒険者の諸君!つい先程、ざわめきの森にてゴブリンの集落、及びゴブリンキングの存在が確認された!これにより、ルフトの街の冒険者ギルドは現時点を持って黄のB級の緊急クエストを発令する!」
振り返った先、受付カウンターの奥には、歴戦の冒険者ですと言われても納得できそうながっしりとした体格の大男が立っており、大声を張り上げて緊急クエストの発令を告げている。
(Bの黄色か、ならまだEの俺には強制参加とかは特にないな)
実際にこうして緊急クエストが発令されるのを見るのは初めてだが、冒険者登録時に緊急クエストとその分類による説明があった。
緊急クエストはその危険度と、対象の数及び強さによって通常の依頼と同じランク分類に加えて色による分類が行われているらしい。
確か、赤黄青の三色で、赤が対象が単体または対象の周辺の敵も強い一番厄介な分類で、対象の依頼のランクを受けれる冒険者は全員強制参加になる。
黄色は対象の他に取り巻きが多く、その取り巻きがさほど強くない場合で、対象の依頼ランクの二つ下、今回の場合ならDランク以上が強制参加となる。
そして青は特定の対象というより、魔物の大量発生などのとにかく数が必要な場合で、依頼のランクに関わらずEランク以上は強制参加となる。
そして、赤以外の二つに関しては、強制参加のランクに足りないランクの場合でも自己責任で参加することが出来る。
今回の依頼もゴブリンキングがいるとはいえ、ゴブリンの集落の殲滅、Eやそこそこ腕に自信のあるFも参加するだろう。
(さて、どうしたもんかねぇ)
ゴブリンキングという魔物に興味はあるが、Eランクということを考えると恐らくは周囲のゴブリンを狩る露払いの役割で終わる可能性が高い。
それに加えて、若干自業自得な側面はあるが、先の件でこの街の冒険者連中に対する評価は俺の中ではかなり低くなっている。
この街にC以上の冒険者がどの程度の数いるかは分からないが、ゴブリンキングは一応はBランクとはいえ、Bランクの中でも底辺に近いと言われている魔物だ。
仮にBランクがいなかったとしても、それなりの腕のCランクが5人もいれば特に何の問題もなく討伐することが出来るだろう。
参加しても露払いが関の山と考えられるこの状況、幸いにも強制参加の対象からは外れている事だし、不参加の方向に俺の気持ちは偏りつつあった。