14話
「さて、後はあんたで最後だな」
長剣使いに大剣使いを倒し、残るは最初に絡んできた斧使いの冒険者だけ。
そしてその斧使いの冒険者の方を振り返って声をかけると、斧使いの冒険者はわずかに顔を青くしていた。
まさかただのガキだと侮っていた俺に、他の二人が一度として攻撃を当てられないまま倒されるとは思わなかったのだろう。
ギルド内での威勢はどこへやら、斧使いの冒険者はわずかに青い顔をしたまま完全に黙り込んでしまっていた。
(一人目の長剣使いはともかく、二人目の大剣使いは思ったよりは楽しめたが、最後のこいつは完全にハズレっぽいな)
「おい、あんたの番だぞ?やるのか?それとも尻尾をまいて逃げるのか?まあ俺も鬼じゃない、最初に俺に言った言葉を取り下げて頭を垂れて誠心誠意謝るならここらで終いにしてやってもいいぞ」
「う、うるせえ!誰がテメエみてえなガキにビビるってんだよ!不甲斐ない他の二人に変わってこの俺様がテメエを叩き潰してやる!」
俺が発破をかけるようにあれこれ挑発の言葉をぶつけると、ようやく斧使いは決心したように前に進み出る。
そして、斧使いは得物を構えると、こちらが武器を構えるのを待たずに攻撃を仕掛けてきた。
「死に晒せぇえええ!!」
「ま、確かにルールに一対一と言うのは決めたが勝負の開始タイミングに関する取り決めはなかった、か」
ルールの不備をつくような不意打ちの攻撃。
事前に決めてなかった以上咎めるつもりはないが、元々下がっていたモチベーションがこの斧使いの行動でさらに下がった。
「ったく、興が冷めたな。こいつにだけは傷の一つや二つ覚悟してもらうか」
目の前に迫り来る斧をバックステップで回避しながら、俺はそんなことを呟く。
一応、ここまでの戦いでは相手に怪我を負わせるようなことはしなかった。
互いに無傷で終わらせられる程度の実力の差はあったし、最初に喧嘩をふっかけてきたのは相手とはいえそこまで叩くほどの相手とは思えなかったからだ。
ただ、こいつは、こいつだけは最後の最後でつまらない真似をした。
まあ単なる俺の気分の問題での八つ当たりに等しいが、折角ルールで決闘中の怪我は互いに責を追わないと決めてあることだし、こいつはストレス発散も兼ねて物理的に叩き潰す。
「お前なんぞに使うには上等すぎる攻撃だが、ストレス発散も兼ねての大サービスだ。存分に味わってくれよ?」
「うるせぇえええ!!!」
もはやヤケクソになっているのだろう。
俺の口上を聞き入れもせずに癇癪を起こしたような叫び声を上げながら、力任せに斧を叩きつけてくる。
「やれやれ、とんだ嚙ませ犬だな」
迫り来る斧を前に今度は回避行動を取ることなくそんなことを呟く。
直後、俺の目の前に氷で出来た盾が現れ、斧の攻撃を遮る。
『創造』の力で生み出した氷の盾は、支えとなるものもないのに空中に留まり、斧の一撃を完全に受け止め、氷片すら散らさない。
「ほんと、お前みたいな嚙ませ犬に使うには上等すぎる力だよ。いや、嚙ませ犬という役割から考えればある意味正解か」
「クソがぁ!」
斧使いは苛立ったようにがむしゃらに氷の盾に斧を叩きつけるが、この氷の盾はワイバーンの攻撃すら受け止める程度には頑丈だ。
その程度の力でこの盾を突破できるわけがない。
「滑稽だな」
俺がそう呟いた直後、突如として斧使いの体が大きく仰け反る。
まあ突如、と言っても俺が『創造』の力で生み出した氷の拳で斧使いの顎にアッパーを叩き込んだ結果なのだが。
「今ので顎の骨が砕けてないといいな?」
そんな言葉と共に、俺は次なる『創造』の力を発動する。
大きく仰け反り後ろに倒れ込んでいく斧使いの背後、斧使いと地面のちょうど中間あたりで、小規模な爆発が起こる。
熱量を抑え、上向きに吹き飛ばす衝撃に特化したその爆発は、狙い通りに斧使いの体を宙に浮かせた。
「さあ、存分に空から眺める景色を楽しんでくれ。楽しむ余裕があるかは知らんが」
浮き上がった斧使いに追撃をかけるように次々と小規模な爆発が斧使いを襲う。
爆発はある時は前に、ある時は後に、ある時は上に、ある時は下にと、決して斧使いを地面には落とさないようにしながら斧使いの体を空中で弄び続ける。
「さて、そろそろボール遊びも終わりにするか」
単純に斧使いを空中で吹き飛ばし続けるのにも飽きてきたので、そろそろこのくだらないお遊びにも終止符を打つことにした。
それまでよりも威力を強めた爆発を斧使いの真下で起こし、斧使いを高く高く打ち上げる。
そして、そのまま自由落下で落ちてくる斧使いを大きな氷の球体の中に閉じ込めた。
氷の球体は中心部が空洞になっており、空洞部分には斧使いと大量の水を入れておく。
斧使いを閉じ込めた氷の球体は徐々に速度を増しながら地面に近づいていき、地面に激突する寸前、氷の球体と地面の間でまたも爆発を起こし、落下速度の殆どを殺す。
そして、落下速度をほぼ0にされた氷の球体は、わりと静かに地面に落ちそのまましばらく転がり動きやがて完全に止まった。
「あーらら、完全に気絶してるな」
以前の反省から『創造』しておいた『遠視』の能力で空中にいる時から意識を失っているように見えていたが、落下してきた氷の球体の中で、斧使いは完全に意識を失って浮かんでいた。
「流石に水の中に放り込んどいたら窒息死するだろうし、出しといてやりますかね」
流石にこんなお遊びで殺してしまったらいくら冒険者同士のトラブルとはいえ厳罰は免れないだろう。
俺は『創造』で生み出した氷と水だけを蒸発させる炎を生み出し、一瞬のうちに氷と水を蒸発させる。
そして出てきた斧使いは、命に関わるような大怪我は負ってないが、度重なる爆発の衝撃で鎧のあちこちが凹み、破損していた。
恐らくは全身のあちこちに大小様々な打撲を負っていることだろう。
「あれ、お前らの仲間なんだろ?勝負の最中の怪我は互いに責任を負わないってルールだし、後は任せるわ」
俺は驚愕の顔で完全に固まってしまっている長剣使いと大剣使いにそう声をかけると、そのままギルドの中に入った。




