巡査・頭山怛朗の活躍(第九話 「行きがけの駄賃」で行方不明事件を解決する)
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その家はあたりの町並みからちょっと外れていた。
街は住宅街で、まだ真新しい家かきちんと手入れがされた庭・家屋が立ち並んでいた。でも、その家は何年も手入れがされていなかった。庭は草が伸び放題、庭木は何年も選定がされていなかった。壁はコケで汚れていた。洗濯物一つ無く、プランターの花も無かった。人の気配が感じられなかった。ただ、屋根だけの駐車場にシートが被せられ車が止められて、人は住んでいた。
巡査がインターホーンを押した。
「は、はい……」暫くしてインターホーンの向こうで男が面倒臭そうに言った。巡査は“寝ていた?!”と思った。不機嫌な態度は我慢しなければならない。誰だって寝ていたところを起こされたら不機嫌になる。例え、時間が午前十一時だろうと……。夜勤明け? 否、それはないだろう。夜勤明けに屋根のある駐車場に車を止めシートをかけるなんて面倒なことはしない。
巡査はシートからはみ出したバンパーを見た……。
「すみません、交番の頭山といいます。巡回連絡です。お話をお聞きしたいのですが?」
「……」インターホーンの向こうの相手が黙った。
「すみません! 」巡査はインターホーンのボタンを押して同じ言葉を繰り返した。
玄関が開いた。その一瞬、玄関ロービーが見えた。床が埃で白く、雑多な物であふれていた。何ヶ月も掃除をしていないのだろう。
ジャージ姿の男が出てきた。頭はぼさぼさでひげは何日も剃られていなかった。ただ、男は上機嫌だった。否、上機嫌を装うっているのが分かった。
「ここでいいですよね? 」と、男が言った。
「勿論」と、巡査が言った。巡査は警察手帳を提示した。“巡査・頭山怛朗”
“この男、どこかで見たことがある”と、男は思った。“そうだ、バナナマンの日村だ”
「杉下左京さんですね? 」と、巡査。
「そうだ」と、男。男が腕時計を覘いた。
柔和な巡査の目が一瞬光ったのを男は気が付かなかった。
「Porsche Design 自動巻きだ。十万円はするはずだ」
「そんなものだったかな……。よく覚えていない」男はもう一度、珍しそうに自分の腕時計を覗き込んだ。
数日後、頭山巡査は男の家を再び訪れた。ただ、後ろには交通課警官と鑑識職員がいた。
「どうした? 」と、男が言った。「また、こんなに大勢で巡回連絡か? 」言葉と裏腹に男の目には“恐怖”があった。
「十日ほど前、J県G町で男性が山道でランニング中に行方不明になりました」と、頭山巡査が言った。
「それで? おれには関係ない! 」
「その男性、Porsche Design 自動巻きを愛用していました」
「Porsche Design 自動巻き? 」
「あなたのその腕時計ですよ」
「……。そうだった」
「あなたは自分の腕時計が何かも知らない! 」
「そんなことはない」
「いや知らない! Porsche Design 自動巻きのその型は百六十万円はします。でも、私が“十万円くらい”とカマをかけたら、あなたはあっさり同意した。何故か?! 自分で買っていないから本当の値段を知らない。実際にその時計を買ったのは行方不明の男性です」
「……」
「今から、令状によってあの車を調べます。さしあたり轢き逃げの捜査です。さっき言った男性の血痕、DNAが見つかると思いますよ」
男が叫んだ。「……。あんなところであんな時間にランニングしているのが悪いのだ! 」
「これは自白ですね」と頭山巡査が交通課警部補に言った。「ぼくは巡回連絡に戻ります。今回の件で大分、予定より遅れてしまいました」