彼女と、彼女を取り巻く一方向の現実について
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一体、どうしてこうなってしまったのだ。
フィヌ・フィリーは両肩をすぼめながら窓ガラスを拭いていた。
事務員用の腕抜きを両手にはめて、青いバケツと雑巾片手にかれこれ30分ほど、もっと正確にいえばこの作業を始めてから本日で1238時間経過している。
背後を振り返れば、アンティーク調の文書机と皮張りの椅子が一脚。椅子の真後ろにはなんだか精神が根こそぎ破壊されそうな、猫だか犬だかタヌキだかわからない「彼女」絶賛の不気味な絵画が飾られている。明らかに部屋の内装に不一致だ。
奇妙な絵画の右側端には扉が一つあり、その先は給湯室と手洗い場、シャワールームを抜けて居住スペースが存在する。
窓からは燦々と陽光が差し込み、先日仕立てたばかりのロイヤルブルーのカーテンに光が走っている。
室内に来客用の机や椅子はないが、申し訳程度に用意された飴色の腰高ほどの本棚の上にファックスと電話機、メモ帳が何となく置かれていた。
「あーーーー」
長い吐息を零しながら、フィヌ・フィリーは指紋も汚れも一つない美しく磨き上げられた窓に映る自分の顔をどんよりと見つめた。
一体全体、何の貧乏くじを引いた結果、死神の自分がこんな雑用を押し付けられているのだろう。
生まれてこの方、というより概念存在として誕生してより、このようなひどい扱いを受けたためしがない。
すべて自分がちょっと面白そうだからと、かつて誰かが取りこぼした魂の現場に立ち寄ってしまったのがはっきり言って運の尽きだった。
「こんなところ誰かに見られたら、恥ずかしくて消えてしまう」
ひどい、ひどいよ!
嘆きつつ、フィヌ・フィリーはわっと雑巾を持った手で顔を覆った。
「あのぅ」