彼女の死、あるいは物語のはじまり5
「人の死はね、ミコト。いつだって平等面をしているけれど、平等じゃない。誰にも平等に訪れるものが寿命だなんて、それは人間の概念の範疇の物事でしかない。現に、キミを殺した―――君たち一家を殺したヤツというのは、その概念の範囲の外のものだ」
手入れのされていない大きな樹木が夜風を受けて一斉にざわめいた。
残った瞳を見開いて、初めてミコトが人間らしい反応をするように肩をいからせる。
突風のように凪いだ風も、ミコトたちには関係がない。
今視ている風景さえも幻影の可能性があり、この世の物質世界の理から外れたミコトたちに物質の世界で起きていることは作用しないからだ。
「だからキミたち人間にはどうしようもない。範疇を超えたものは範疇の外にあるものにしかどうこうできないからね。いくらキミ、たちがとても優れていたとしても、世界の範疇の内にある限り望みは叶えられないんだ」
雑草生い茂る中をフィヌ・フィリーが歩み続ける。
まるで道化師のような青年の後をゆっくと追いかけながら、ミコトは心が初めてざわつく感覚を覚えた。
「さぁて、どうするミコト? 10年経った後とはいえ、向こうに行くんならついでだから連れていってあげるよ。仕事外のことだけど。うっかり見つけちゃったのは僕のせいだし、最後まで責任とらないと後味悪いしさ」
口に出していることと思ったことが一致しない人間というのはよくいるものだが、彼以上に上っ面だけの言葉を並べ立てるものはいるまい。
フィヌ・フィリーは極上の笑顔を向けながら、少し遠方にある白銀の扉を指さした。
ミコトは目を見開いた。




