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彼女が夢見た幻想と、その歪曲した事実に関して8




「ちょ」


「うるさいな。ちょっと待て。一体全体、今回の案件はどういう状態なのか皆目見当がつかない。つかない部分もあるが、ついている部分もある。その符合に足る証明を聞かないことには、俺からは何も話せんよ」


「しらばっくれる気?」


 ミコトは立ち上がり、手袋をはめた右手を強く握りしめた。


 色の違う相貌で彼を睨みつけた時、そこに彼の姿はなかった。


 一瞬の出来事。


「なっ」


 さすがに泡を食って目を見開いたミコトだったが、それより彼の方が速かった。


「ミコトちゃん」


 背後から御堂の声が滑り込む。


 ガチッと体を後ろから抱きかかえられ、強い力でぎりぎりと右手を締めあげる。


「あっ」


「俺がもし、君が追おうとしている犯人だとしたら。君はもう魂ごとこの世にはいないだろうさ」


 滑るように、男の空いている方の手がミコトの顎に後ろ手にかかる。力を入れられ、細い顎が軽くきしむ。


「せっかく」


「うっ」


 耳朶を男の吐息がゆっくりとくすぐる。


 その気持ち悪さに、ミコトは肌を粟立たせた。


「せっかく、器を手に入れてもう一度セカイを満喫しているのに。もう一度、虚無に帰りたいのかい? 一回死んだから二回目はもっとたやすいし、痛くないように外してあげるよ」


 顎にかかっていた太い男の指がゆっくりと喉をたどって首にかかった。


「み、ど」


「俺はね、嬢ちゃん―――。自分の作品はとことん愛すし、とことん愛おしいと思うけれど。あらぬ疑いで想像主に刃を向ける者を放置することはできない。俺の作る作品はあらゆる面で完璧でなければいけないんだ」


 低く囁くような声なのに、そこに甘さや優しさはない。


 鋭利な刃を心臓の上にじかに突き立てられているような恐怖が舐めるようにミコトを襲う。


 身動きをしようとしても、体は動かず、じっとりとした脂汗が体から染みだす。


 この、本来人間の体に生理的に用意されている機能すら、この男の手にかかれば「奇跡」同然に生み出せるのだ、という事実を突きつけられているようでミコトは奥歯をただ強くかみしめるだけだった。


 観念したのか、ふ、と体から力を抜いたミコトに、御堂は愉悦の表情を浮かべ離れることも開放することもせず、そのむっちりとして程よい太ももにひた、と指を這わせた。


「生理的機能がちゃんと作動しているかどうか、確かめてみるかい?」




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