彼女が夢見た幻想と、その歪曲した事実に関して5
顔面が腫れ上がっている男が、欠けた木の盆からいつ洗ったのかわからないほど茶渋の付いた茶器を畳の上にじかに置いた。
「どーぞ。お嬢様」
ミコトは目じりを軽く痙攣させた。
湯呑が置かれた畳の上はほとんど井草が破れており、残念ながら日に焼けて文字通りあばら家の立派な畳の間の様相を呈していた。
茶は緑茶のようだったが、のどが渇いていてもミコトは口をつける気にはならない。
客間、と思しきこの一室だが明らかに異質とも呼べる奇妙なものが部屋のあちこちに転がっていた。
「御堂幻粋―――。あんたね、さっきはいったい何してたのよ」
さっき、とは真昼間煌々と陽光の出る中で突如として現れた白色の煙のことである。
鼻腔を猛烈につく香りの残滓は、今でもわずかに部屋のそこここに残っているのだが、ミコトにはまるで見当がつかないのだ。
「あ、座布団座る? 座布団」
御堂はそれにすぐには答えず、自分の脇に二つ折りに置かれていた四角い布をミコトに差し出した。
「あのねぇ、御堂。私だってこんなとこ、何かよっぽどの用がなければ来ないわよ。できれば来たくないわよ? それなのにわざわざ足を向けてやった私の徒労に報いようとする気はないわけ?? ―――で、何してたのよ」
差し出された綿の出ている抹茶色の座布団を指先で退けながら、努めて冷静に。しかし、ひたと怒気を隠そうともせず、ミコトは尋ねた。
「え―――?」
ずず、と片手で茶をすすった藍色の甚平姿の男は、ちょっと驚いたような表情をした。




