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彼女の死、あるいは物語のはじまり2



 死体の山を見分しながらハンカチで鼻と口を覆っていた30代手前に見える男が、初老間近のスーツ姿の男性に神妙に問いかける。


「こりゃぁ、調べてみんとわからんな。何人重なってんのかさっぱり見当もつかねぇ。少なくともこの量だ。検死をしてみんとどうともいえんが、おそらく犯行現場には複数の人間がいたに違いない。パーツがそろってるかどうかも不安だしな」


「そうですね。これは・・・・さすがに一人じゃ無理な量ですよね・・・・うぷ」


「おい! そこ!! 仏さんの頭潰すなよ! きぃつけろや」


 怒号が部屋を振動させる。


 部屋から吐き気をもよおして退出しようとしていた大間抜けが、開け放たれた扉のすぐ脇、一番血液が付着している白い壁の前に転がっているボール大の何かを踏んずけようとしたためだった。


「まだわけぇのにな」


 両手を合わせて頭を下げる男性の頭部のバーコードを見下ろしながら、少女は軽く肩をすくめた。


 片目が潰され、頬の肉がそげて腐敗が進み、慟哭した表情のまま空を見上げている黒髪の娘の頭部がそこにはあった。


「ま、死ぬときは痛かったけどね」


 彼女の姿を無視して、まるで映画を見ているように男たちが動き始める。


 迅速に、なだらかに。


 録画の早回しを観ているような光景に、さしもの彼女も興味深げに。


「―――どうだい? 人間の時間って、あっという間だろ?」




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