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彼女と、彼女を取り巻く一方向の現実について8





 空虚な洞のような場所に、血赤のような眼が入っている。


 眼を与えたのは、この男。


 フィヌ・フィリーだ。


「死神との魂の契約ね」


 器に魂がなじむまでずいぶんかかるとは聞いていたが、存外に大変なものであるらしいとミコトは感じた。


 あの日、あの時、すでに死で埋め尽くされた後の空虚な部屋で「あの男」は言った。


 手に入れたければ、時を待て―――、と。


 そして訳も分からず待った時間の果てに、現れた男が。


「そうして私も、訪ねたのね」


 誰も入れるはずのない部屋の扉を見つけて入ってきた「依頼者」という珍客。


 ここへ来てから初めて対面した「客」の存在に、ミコトは床上で痙攣する青年をじとっとねめつけた。


 狸の上で踊らされる道化の気分とはこのことだ。


「いつまで寝てんのよ。さっさと汚れを片付けて、行くわよ!」


「グヘッ」


 最後に面白くなくて、床に転がったままのフィヌの横腹を蹴り飛ばし、ミコトは部屋の奥へ引っ込んだ。






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