彼女と、彼女を取り巻く一方向の現実について6
何の映画のワンシーンだ、と粟立つ肌が止められないことは承知なのだが、こうなった男を止めることができないのは世の常である。
「フィニさん。ありがとうございます。どうか、どうかお願いいたします」
フィヌの手をぎゅっと握り返す手に、彼は感激し、彼女を見上げた。
「――――あ、手が滑った」
むせ返るような珈琲の香り。
「きゃぁっ」
「ギャーーーーー!!アヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!」
道香は驚いて両手をフィヌから取り外すと、慌てて椅子から立ち上がった。
ガタンと音を立ててパイプ椅子が大きく揺れ、彼女が手から取りこぼしたカップがまだ残っていた紅茶をフィニの顔面に向けてまき散らしつつ床に転がる。
「イギヤァァァァアァアアアア」
「ご、ごめんなさいっ!」
熱い、イタイ!
叫んでのたうち回るフィヌの背中に、なぜかさらにもうもうと湯気を立てながら滝のようにコーヒーが流し込まれていた。
「アンギャァアアアアアア」
恐竜が如く方向を上げて、フィヌは部屋中を走り回る。
まるでかちかち山のタヌキのようである。
「まぁ、びっくり。絨毯がぬれてて、うっかりびっくりして手からコーヒーがこぼれちゃったわぁ」
棒読みよろしくミコトは表面的に詫びを入れ、部屋中を往来したのち、ミコトに向けて烈火のごとく怒り狂い突進してくる男を見据えると、嫣然と微笑し、手に持っていたコーヒーポットを投げつけた。




