彼女と、彼女を取り巻く一方向の現実について5
「だから、依頼だって」
「何の依頼なのかって聞いてんのよ、私は」
優雅に紅茶をすすりながら、ミコトは「あー、だるい」と呟いた。
「あの。お忙しいのでしたら、また後日日を改めますし」
見るに見かねたのだろう。道香がフィヌに声をかけて腰を上げようとする。
「ちょっと待ってくださいお嬢さん! あなたは何も悪くないんですよ~。悪いのは、この、凶悪極悪を絵にかいたような存在のせいです」
「ほほう。言ってくれるじゃない、フィニ」
にこり、と笑みを零したミコトにフィヌは背筋がぞっとする思いだ。
だがここは、麗しい客のために男を見せねばならぬ時だろう。
フィヌは道香に歩み寄ってひざを折り、プロポーズをするようにその華奢な手をそっと取った。
「ええと。でも」
困惑する道香に、安心させるようにフィヌはにこやかにほほ笑む。
「大丈夫ですよ、道香さん。こいつはこう見えても、割と責任感はありますし、一度聞いた依頼をほっぽり出すような無能な奴じゃありません。天地天命、僕とあなたの魂にかけて誓います。この依頼をお受けいたします」
「どこぞのタラシ王子か、あんたは」
鼻先でせせら笑いながら、呆れた声を出すミコトの声ももはやフィヌの耳には入らない。
「ミコトは黙ってろ! 上司兼相棒兼、師匠の命令だ」
「あーはいはい。メンドクサイ。勝手にしてくださいませー」
女性がらみになると俄然張り切りだすエロ上司に辟易しながら、ミコトはカップの中が空になっていることに気づいた。そういえば、コーヒーもオーダーしたはずなのだが、まだ来ていない。
ミコトは椅子から立ち上がると、空になったティーカップをぶら下げて給湯室に引っ込んだ。珈琲の香りが部屋中に充満している。
「麗しい道香さん。あなたの憂いはこの、フィヌ・フィリーとその弟子が見事に晴らしてみせます」
「フィ・・・」
「どうぞ、フィニとお呼びください」
何の映画のワンシーンだ、と泡立つ肌が止められないことは承知なのだが、こうなった男を止めることができないのは世の常である。




